睡眠の質を高めるカギは脳ではなく、腸が握っていた

答えてくれる人

医学博士

藤田紘一郎先生

1939-2021。寄生虫学、感染免疫学、熱帯病学を専門とし東京医科歯科大学名誉教授を務める。ユニークな視点と語り口から寄生虫博士、カイチュウ博士として人気を博す。著書に『笑うカイチュウ』、『腸内革命』、『脳はバカ、腸はかしこい』など多数

からだの「名医」は
夜、就寝中に現れる!?

突然ですが、みなさんは夜ぐっすり眠れていますか? 若いころは朝布団から出るのがつらいくらいだったのに、歳とともに寝つきが悪くなった、夜中や早朝に目が覚める――そんな声をよく聞きます。

しかし睡眠の質の低下は、単なる加齢のせいだけではありません。じつは、「腸」が深くかかわっているのです。

わたしたちが夜眠くなるのは、睡眠ホルモン「メラトニン」が分泌されるためですが、その材料となる物質をつくるのは腸内細菌。つまり、食生活の乱れやストレスなどで腸が汚れていると、メラトニンがじゅうぶんに分泌されず不眠に陥りやすくなるということ。

「眠れないくらい大丈夫」とあまく見てはいけません。なぜなら、睡眠中は自然治癒力が発揮される大切な時間。

たとえば風邪をひいたとき、高熱に浮かされるのは日中よりも夜中が多いでしょう。それは体内で風邪ウイルスと腸の免疫細胞が戦っている証。就寝中は副交感神経が優勢になるため腸が活発になり、どんな名医にも勝る「免疫力」がはたらくのです。健康のためには、夜ぐっすり眠って腸の活動をうながすことが欠かせません。

不眠症の人はそうでない人にくらべて病気の罹患率が高い。胃腸障害においては3倍以上の差があり、不眠と腸内環境の悪化が密接に関係していることがわかる
出典:Taylor DJ et al.sleep.2007:30(2):213-218.より作成

日中のリズム運動が
腸をリラックスさせる

就寝中、腸は風邪以外にもさまざまな病気と戦ってくれています。からだの深部体温が約1℃下がる夜の体内では、がん細胞の増殖が盛んに。さらに脳梗塞や心筋梗塞の原因となる血栓も夜につくられます。腸の免疫力を最大限に発揮するためにも、メラトニンをたくさん分泌させてしっかり眠りたいものです。

そのためには、まず善玉菌や食物繊維をしっかりとり、腸内環境を整えましょう。それにくわえてぜひ習慣にしてほしいのが、「リズム運動」。ウォーキングやラジオ体操、そして自転車をこいだり、深呼吸や咀嚼もリズム運動のひとつです。単純な動きをくり返すことで自律神経が整い、腸もリラックスしてメラトニンの材料をたくさんつくってくれます。

リズム運動をおこなうのは日中がおすすめ。起床後から夕方ごろまでに腸内で分泌されたメラトニンの前駆体は、夜になると脳へ運ばれて眠気を引き起こします。日中にたくさん材料をつくっておけば、夜はぐっすり眠れるというわけです。

メラトニンは快眠をもたらすだけではありません。なんとアルツハイマー病の原因であるアミロイドβ(ベータ)の沈着を防ぐ作用があるとして、近年注目されているのです。「脳腸相関」という言葉もあるように腸のはたらきは脳に多大な影響を及ぼします。よく眠り、老いない脳をつくるためにも、腸を大切にしていきましょう。

今日から実践!
メラトニンを増やす方法

リズム運動で腸を刺激

1日5~10分程度、お好みのリズム運動をしよう。自転車なら関節への負担も軽く、腸腰筋も鍛えられるので腸の動きが活発になる

朝に和食を食べる

メラトニンの前駆体はトリプトファンやビタミンB6を材料につくられる。スムーズな入眠のためにも、これらの成分が豊富な大豆食品や魚を午前中に摂取しておこう

消化・吸収、免疫など腸のはたらきは多様ですが、睡眠さえもコントロールしていたなんて驚きですね。秋から冬に移りかわるこれからの時季は、自律神経が乱れて眠りが浅くなりがち。食事のときに時間をかけて咀嚼するなど、できることからはじめてみましょう。

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2024/04/23 10:19:15