「食欲の暴走」を止めるには腸をきれいにみがきなさい

答えてくれる人

医学博士

藤田紘一郎先生

1939-2021。寄生虫学、感染免疫学、熱帯病学を専門とし東京医科歯科大学名誉教授を務める。ユニークな視点と語り口から寄生虫博士、カイチュウ博士として人気を博す。著書に『笑うカイチュウ』、『腸内革命』、『脳はバカ、腸はかしこい』など多数

脳は見境なく
ニセの食欲を出しつづける

「別腹」という言葉をご存じですか? これは、「満腹なのに好物は別の胃に入るように食べられる」という状態のこと。おそらく多くの方が食後のデザートやシメのラーメンなどを目にしたときに、「満腹なのに食欲がわいてきた」という現象を経験したことがあるでしょう。

そのとき頭ではよろこびを感じるかもしれませんが、からだは悲鳴を上げています。いったいなぜ、わたしたちは空腹でないときでも食べたくなるのでしょうか?

じつはこれ、脳がつくりだす「ニセの食欲」。もともと脳は快楽を得ることでみずからを活性化させようとする性質があります。だから、いくら満腹でもおかまいなし。からだへの害など考えずに、次から次へと欲を出して満たそうとするのです。

そんな脳の暴走を抑えて食欲をコントロールしてくれるのが、ほかでもない腸です。腸はからだの中で唯一、脳の指令なしに独立して機能できる臓器。からだの危険を察知するセンサーを持ち、満腹になると「もう食べないで」と脳に信号を送ってくれます。

見境なく欲望を出しつづける脳とは違い、腸はからだのことをいちばんに考えているのです。

脳は欲深いうえ、ストレスに弱いのもやっかいなところ。ダメージを受けた自分を癒すため、執拗に快楽を得ようと暴走する

ピカピカで感度のいい腸が
健康に導いてくれる

ところが、腸が汚れているとそのセンサーがうまくはたらかず、食欲は止まらなくなってしまいます。しかも脳は糖質や油もの、化学調味料たっぷりのスナック菓子など、刺激の強いものが大好物。脳の欲望のままに食べつづければ腸はますます汚れ、さまざまな生活習慣病を招くのです。

お恥ずかしい話ですが、かつてわたしも脳の欲望に支配され、暴飲暴食をしていた時期がありました。毎晩のように中華料理店に通い、何度もおかわりして甘いデザートもきっちり完食。そして極めつきは帰宅後のポテトチップスとビール。もう満腹を通り越し、胃薬を飲みながらも食べつづけていたのです。当然、血糖値やコレステロール値は急上昇し、糖尿病も患うありさまでした。

そのときのわたしのおなかはパンパンに張り、ガスが出っぱなし。腸が「このままだと危険だよ」と警告してくれていたのです。ようやくわたしは深く反省し、それからは腸がよろこぶ生活を送るように。そうしたら暴飲暴食をしたり、糖質や油ものも食べたいと思わなくなりました。おかげさまで78歳の現在も健康そのものです。

身勝手な脳の欲にだまされないためにも、日ごろから腸をピカピカに保ち、危険を察知するセンサーをみがきつづけましょう。腸がよくはたらけば、からだは自然と健康に導かれるのです。

今日からできる!
腸のセンサーをみがく3ヵ条

間食前に腹で呼吸する

へそのあたり(丹田)を意識して呼吸をすると、おなかの張りや満腹具合などに気づきやすい。「ほんとうにいま食べたいか?」と考えるクセがつくように

糖質や化学調味料を減らす

これらは腸を汚すうえ、脳の依存性が強く食べつづけたくなる。甘いものはひと口までと決めたり、味つけはシンプルにするなど、摂取量を減らす工夫をしよう

楽しみをつくる

友人と会ったり趣味に没頭するなど、食べること以外で楽しみをつくろう。脳が満足すれば余計な食欲を出さなくなり、腸も元気になる

からだの一部である脳が、健康を害する判断をくだすなんて恐ろしいですよね。でも大丈夫。腸をきれいにみがきつづければ、脳が暴れることもありません。さっそく、今回ご紹介した3ヵ条を習慣にしてみましょう。

single.php

2024/04/28 7:18:21