「常在菌」と仲よくすれば病気に負けないからだになる

答えてくれる人

医学博士

藤田紘一郎先生

1939-2021。寄生虫学、感染免疫学、熱帯病学を専門とし東京医科歯科大学名誉教授を務める。ユニークな視点と語り口から寄生虫博士、カイチュウ博士として人気を博す。著書に『笑うカイチュウ』、『腸内革命』、『脳はバカ、腸はかしこい』など多数

手をゴシゴシ洗うと
風邪をひきやすくなる!?

本コーナーの連載も、はや5年目。寄せられるご感想を拝見すると、ご自身の腸を大切に思う方が増えているようでうれしい限りです。今年も腸を元気にする方法をお伝えしますので、どうぞおつき合いください。

さて、いよいよ風邪やインフルエンザの流行シーズン。予防のために、1日に何度も薬用石鹸でゴシゴシ手洗いしたり、うがい薬をつかう方が多いですよね。しかし、インフルエンザの患者数はまったく減る気配がありません。それもそのはず。じつは殺菌に励めば励むほど、病気をよび寄せるからだをつくってしまうのです。

以前もお話ししましたが、菌には悪いものもいればいいものもいます。そのひとつが皮膚や口腔内などの粘膜に棲みつく「常在菌」。彼らは肌に膜をつくってうるおいを保ったり、病原菌の付着や増殖を防ぐ、いわば優秀なガードマンです。

つまり、殺菌力のある薬用石鹸やうがい薬などをつかえば、これらのいい菌もいっしょに殺されてしまうということ。たった1回の手洗いで常在菌の9割が失われ、ウイルスや病原菌は侵入し放題。それだけではありません。免疫力を司る腸にも悪影響を及ぼすのです。

常在菌は目には見えないが、全体の重量は成人でおよそ2㎏もある。腸内細菌をはじめ全身の免疫をコントロールしてくれる、頼れる存在なのだ

流水10秒でじゅうぶん
「すこしキタナイ」が腸を活発に

腸内細菌は外界の雑多な菌と刺激し合うことでたくましく育ち、病気に負けないからだをつくります。しかし身の周りの菌を排除すると腸内細菌はどんどん貧弱になり、免疫力は低下するばかりです。

わたしが毎年研究で訪れるインドネシアのカリマンタン島の人びとは、汚れた川の水で遊んだり洗濯をします。しかし病気にかかる人はほとんどおらず、肌は思わず触りたくなるほどつややか。わたしたちもかつて野山で遊び、土のついた野菜を食べていたころは、生活習慣病やうつ、アレルギーなどの現代病もすくなかったはずです。

けっして不潔を推奨しているわけではありません。ただ、いまの日本のキレイ社会は過剰です。いたるところにアルコール消毒液が置かれ、家の中にもウエットティッシュや除菌スプレーを完備。わたしたちは「菌はすべて悪者」という間違った情報を信じ、見せかけの清潔感にだまされているのです。

ウイルスや病原菌は、手を流水で10秒間流せばじゅうぶん落ちます。石鹸をつかうなら殺菌効果をうたっていないものを選び、1日2回程度に。そうすれば残った菌たちが時間をかけてまた再生してくれます。

味噌や納豆から善玉菌を摂取するのと同じように、常在菌とも仲よくすること。これが腸を強くし、免疫力を上げる近道と心得ましょう。

今日から実践!
「常在菌」を守る方法

手洗い・うがいは水で

手洗いは流水で軽くこする程度に。ノドがいがらっぽいときは緑茶や塩水でうがいをするとスッキリ!

除菌グッズを多用しない

一度殺菌すると、「いい菌」が再生するまで数日かかる。除菌剤が体内に入れば、腸内細菌も死滅してしまう

入浴後の汗は洗い流さない

皮膚に棲む常在菌は汗をエサにして増殖し、保湿成分をつくる。入浴後の汗はシャワーで流さずに軽くタオルで拭けば、肌はしっとりスベスベに

先生が石鹸をつかうのは入浴時くらいで、それも2~3日に一度。知り合いの方も風邪知らずになったり、乾燥肌がスベスベになるなどうれしい変化が訪れたそうです。世間の情報を鵜呑みにせず、過度な除菌を見直しましょう。

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2024/04/26 6:09:00