答えてくれる人
医学博士
藤田紘一郎先生
1939-2021。寄生虫学、感染免疫学、熱帯病学を専門とし東京医科歯科大学名誉教授を務める。ユニークな視点と語り口から寄生虫博士、カイチュウ博士として人気を博す。著書に『笑うカイチュウ』、『腸内革命』、『脳はバカ、腸はかしこい』など多数
免疫力を左右する
3つのタイプの腸内細菌
いよいよ夏本番ですね。みなさん、冷たいものばかり口にしていませんか? たとえバカな脳がそれを欲しても、腸内細菌たちはどうでしょうか。
わたしたちの腸にはたくさんの「腸内細菌」が棲んでいます。最新の研究ではおよそ3万種類、その数なんと1000兆個以上。すごい数ですよね。この腸内細菌は大きく3つにわけられます。みなさんもよく耳にする、善玉菌、悪玉菌、日和見菌です。これらが種類ごとに並んでいる様子が、花畑(フローラ)のように見えることから「腸内フローラ」とよばれています。
理想の腸内フローラは「善玉菌たくさん、日和見菌ほどほど、悪玉菌ちょっと」。この状態のときは消化吸収がスムーズで、免疫力も高く、からだは若々しくいられます。沖縄の高齢者の腸内細菌を調べたところ、その数も驚くほど多く、善玉菌優位のすばらしい腸内フローラだったといいます。
しかし、悪玉菌が増えると大変です。日和見菌も悪玉菌に加勢し、バランスは崩壊。タンパク質やアミノ酸は腐敗して毒素が発生。それがあらゆる臓器を傷つけ、からだを老化させ、脳卒中や心筋梗塞、がんなどの病気を引き起こすのです。
悪玉菌はほんとうに
「悪」なのか?
「では、悪玉菌をすべて排除しよう」と思われた方、慌てないでください。じつは悪玉菌がゼロでも、わたしたちは病気になってしまいます。くわしくお話ししましょう。
たとえば、悪玉菌の代表・大腸菌。これは、O‒157など有害な菌が腸に侵入してきたとき、いちはやく排除に動きます。つまり、門番のような存在なのです。また、みなさんが積極的にとっている食物繊維には、水に溶けない「セルロース」があります。しかし人間はセルロースを分解する酵素を持っていません。これをせっせと分解し、その過程でビタミンまで合成してくれるのが、ほかでもない悪玉菌なのです。
問題なのは悪玉菌の存在そのものではなく、それが増殖してしまうこと。善玉、悪玉というよび名は、人間が便宜上つけたものに過ぎません。悪玉菌の増殖を防ぐには、からだを冷やさない、高脂肪なものは食べない、そして薬に頼らない。この三原則をぜひ覚えてください。
先述のとおり、大切なのは腸内フローラを整えることです。悪玉菌を増やさぬように気をつければ腸はピカピカになり、からだも若返ります。
しかし、残念ながら善玉菌は歳とともに減少していくもの。次回は善玉菌を増やす方法をお教えしましょう。
今日から実践!
悪玉菌を増やさないポイントはコレだ!
からだを冷やさない
冷たいもののとりすぎや、冷房に直接あたると腸が冷える。入浴はシャワーでなく湯船に浸かり、腹巻きなどの対策を
高脂肪な食べ物を控える
脂身の多い肉、ギトギトの揚げ物、生クリームたっぷりのお菓子……。これらは悪玉菌の大好物なので、なるべく控えて
薬に頼りすぎない
腸をドロドロに汚し、さらなる病気をつくりだす「薬」。とくに抗生物質はすべての腸内細菌を殺し、免疫力を低下させる大敵。安易に口にしないように
最近よく、「悪玉菌を退治しよう」といった宣伝文句を見かけることがあります。しかし今回、悪玉菌も欠かせない存在だということがわかりました。いっぽう的な情報に振りまわされず、きちんと判断する力を持ちたいものです。