答えてくれる人
医学博士
藤田紘一郎先生
1939-2021。寄生虫学、感染免疫学、熱帯病学を専門とし東京医科歯科大学名誉教授を務める。ユニークな視点と語り口から寄生虫博士、カイチュウ博士として人気を博す。著書に『笑うカイチュウ』、『腸内革命』、『脳はバカ、腸はかしこい』など多数
がんも恐れる
体内最強の免疫システムとは
突然ですが、みなさんはインフルエンザにかかったことはありますか? 毎年の恒例だという方も、生まれてから一度も経験したことがないという方もいるでしょう。
この違いは、本コーナーでもたびたび話題にしている「免疫力」の差によるもの。前回も高い免疫力が花粉症を防ぐとお話ししましたが、免疫が守ってくれるのはウイルスやアレルギーだけではありません。
わたしたちのからだは約37兆個の細胞からできていますが、驚くことに、どんなに健康な人でも毎日数千個のがん細胞が発生しています。想像するだけで恐ろしい数ですよね。しかし、なぜ多くの方ががんを発症せずにすんでいるのでしょうか。
ここで活躍するのが、人体にとって最強の免疫システムである「NK(ナチュラルキラー)細胞」。その名のとおり「殺し屋」とよばれ、体内をくまなくパトロールし、絶えず発生するがんの芽や侵入してくるウイルスをやっつけてくれているのです。
ところが加齢とともにそのはたらきは低下し、ウイルスからがん細胞まであらゆる敵が野放し状態に。わたしたちにはNK細胞の活性を高める工夫が必要なのです。
丈夫な腸と陽気な心が
病気を遠ざける
全身ではたらくNK細胞ですが、つくられる場所は腸です。腸は毎日食べ物に紛れてくる病原菌や異物を処理する大規模な免疫器官。NK細胞はそこで敵を排除する力を鍛え、さらに腸内細菌から刺激を受けることで、がんと戦う力を備えます。
NK細胞を活発にする方法はもうおわかりですね。食物繊維や発酵食品をとって善玉菌を増やし、除菌生活をやめて丈夫な腸にすればいいのです。
しかし屈強で怖いもの知らずのNK細胞にも、とても繊細な面があります。じつは、その人の精神状態に強い影響を受けてしまうのです。
ある実験で食事中のマウスに電気刺激でストレスを与えたところ、いつもと同じエサを食べていたにもかかわらず、免疫力が低下してひどいアトピーになったという症例があります。つまり、せっかく腸によいものを食べてNK細胞を活発にさせても、ストレスを感じるとその活性は低下してしまうというわけです。
病気を遠ざけるのに、無理な節制やストイックな健康法はむしろ逆効果。腸と心がともに良好な状態であることが欠かせません。腸によい食事をとり、思いきり大声で笑えばNK細胞は元気にはたらいてくれます。
わたしも免疫力向上のためにいつも落語のテープを持ち歩き、講演中も冗談を多く織り交ぜるようにしています。何事も楽しむ心を忘れず「絶好腸」で過ごし、健康長寿を目指しましょう。
今日からできる!
NK細胞を活発にする方法
善玉菌を増やす
冬は具だくさんの鍋や味噌汁で善玉菌を増やすのがおすすめ。温まることで腸の動きもよくなり、NK細胞もより活発に
1日1回、大声で笑う
大声で笑うと腸も刺激されて一石二鳥。また、趣味に熱中してワクワクしたり、明るくポジティブに過ごすことも効果的だ
朝食をきちんととる
外のウイルスに遭遇しやすい朝と夕方にNK細胞はもっとも活発に。朝食をとって腸を動かせば1日中体内時計が整い、しっかり活性する
「病は気から」とよくいいますが、それは腸と心が密接な関係にあるからだったんですね。わたしたちがふだんとっている腸によい食事も、「おいしい」「楽しい」と笑顔でいただき、免疫力をさらにアップさせましょう。