清潔にしすぎると
腸内細菌が貧弱になる
鈴虫の鳴き声が聴こえ、すっかり秋の気配ですね。同時に、あちこちでクシャミや鼻をかむ音も。もはや花粉シーズンの風物詩ともいえますが、わたしはいつも疑問に思うのです。
子どものころ、よく友人の頭に黄色い花粉をつけて「金髪にしてあげたよ」と遊んだものですが、クシャミをする子はいませんでした。ひと昔前は花粉症などのアレルギー性疾患に悩む方はほとんどいなかったのに、なぜ近年は国民病ともよばれるほど増えてしまったのか。しかも、食物アレルギーを持つ方も多く、命を落とすケースがあるほど深刻な状況です。
これは、わたしたちが過剰な清潔志向になったことが大きく関係しています。いつからか菌を悪者扱いしはじめ、いまや各家庭にまで除菌グッズが常備されるように。テレビCMを見ても「除菌」「抗菌」「殺菌」をうたう商品が次々と登場し、みな菌を排除することに必死です。
このように清潔にしすぎて腸内に「ちょい悪菌」が入ってこなくなると、腸内細菌が減って活気を失います。そして免疫力が低下し、本来無害であるはずの花粉や食べ物が抗原となってアレルギー症状を起こしやすくなってしまうのです。
多くの菌と共生することで
腸が鍛えられ、強くなる
わたしたちはふだん、腸のためにせっせと善玉菌をとり入れていますが、じつは「よい菌」だけだと腸は元気になりません。腸内に「ちょい悪菌」がいることで菌同士が刺激し合い、活性化して免疫力が生まれるのです。赤ちゃんが自分の手足や床に落ちているおもちゃをなめるのも、腸内細菌をゆたかにし、免疫力をつけようとする本能的な行動です。
わたしは田舎育ちのおかげで、昔から土のついた野菜をよく食べていました。いまも手を洗うときは殺菌力の強い「薬用石鹸」は決してつかいませんし、テーブルに落ちた食べ物も拾って食べます。おかげでわたしの腸内細菌たちはとても元気に育ち、人一倍健康なからだを保っています。
ただ、みなさんには「自分の指をなめなさい」とか「床に落ちたものを食べなさい」なんて言いませんのでご安心ください。大切なのは、「菌は汚い、怖い」と刷りこまれた間違った知識を払拭し、菌とおおらかにつき合うこと。手あたり次第に除菌をするような生活をやめれば、ちょい悪菌を日常的にとり入れることができ、腸は鍛えられます。アレルギーや病気にも負けないからだになるのです。
さらに、腸を強くすることでがん細胞をやっつけてくれる体内のパトロール部隊「ナチュラルキラー細胞」も活性化します。くわしくはまた次回、じっくりお話しすることにしましょう。
今日からできる!
「ちょい悪菌」と上手につき合う方法
除菌グッズを多用しない
除菌剤がついたものを口にすると、腸内細菌が死滅してしまう。まな板や包丁などは熱湯をかけたり、天日干しにするとよい
手づくりのおにぎりを食べる
手でにぎったおにぎりなら、皮膚に棲む常在菌をかんたんにとり入れることができる。食べる際も手づかみで思いっきり食べよう
土とふれ合う
土には腸がよろこぶ土壌菌がたっぷり。小さな植木鉢で花を育てたり、道端の草花を触るだけでも土壌菌をとりこむことができる
わたしたちはこの世に誕生するとき、お母さんの産道の中で菌をもらい、腸内細菌を増やすそうです。人生で最初のプレゼントが「菌」だなんて、驚きですね。これからはさまざまな情報に振りまわされずに、菌とともに生きて腸をよろこばせていきましょう。