答えてくれる人
医学博士
藤田紘一郎先生
1939-2021。寄生虫学、感染免疫学、熱帯病学を専門とし東京医科歯科大学名誉教授を務める。ユニークな視点と語り口から寄生虫博士、カイチュウ博士として人気を博す。著書に『笑うカイチュウ』、『腸内革命』、『脳はバカ、腸はかしこい』など多数
腸内細菌がすくないと
イライラが止まらない
長年にわたって研究を進めるうちに、わたしは人を見るだけでその人の腸内環境がだいたいわかるようになりました。
やさしくおだやかな人はきれいで元気な腸、ヒステリックでイライラしている人はたいてい腸内細菌がすくなく貧弱な腸の持ち主。もしみなさんの周りに攻撃的な言動の人がいたら、きっとその人は腸内環境が乱れているはずです。
腸と性格との関連を示す実験があります。スウェーデンのカロリンスカ研究所とシンガポールのゲノム研究所のチームは、通常の腸内細菌を持つマウスと持たない無菌マウスの成長を比較観察しました。すると、通常マウスが問題なく育ったいっぽうで無菌マウスは攻撃的になり、危険をともなう行動をすることがわかったのです。
腸内細菌の種類や数が不足すると、脳内の「幸せ物質」とよばれる神経伝達物質、ドーパミンとセロトニンも欠乏します。じつは、幸せ物質になる前段階の物質(前駆体)は腸でつくられるのです。そして、これらをつくるために必要なビタミン類を合成したり脳内に前駆体を送るのも腸内細菌ですから、不足すればイライラして不機嫌になるのは当然といえるでしょう。
幸せ物質で脳を満たして
おだやかな心に
では、幸せ物質をじゅうぶんに分泌させるにはどうすればよいのか? 本コーナーの読者であるみなさんなら、もうお気づきですね。
そう、まずは腸がよろこぶ食べ物を積極的にとり、腸内細菌を増やしましょう。合言葉は「お・な・か・は・す・き・や・よ」(※表参照)。腸内細菌のエサとなるオリゴ糖や食物繊維、腸の機能を活性化させる発酵食品や酢、キノコ……これらを毎日積極的にとり入れましょう。
次に、幸せ物質の材料「必須アミノ酸」を豊富に含む卵や魚、大豆食品などのタンパク質もしっかり食べるようにしてください。必須アミノ酸はからだに必要不可欠な成分ですが体内で合成できないため、食べ物から摂取しなければなりません。
最後に、食品添加物をとり過ぎないこと。合成保存料、合成着色料、発色剤などの食品添加物は、腸内細菌の発育や増加に悪影響を及ぼします。とくに注意していただきたいのは合成保存料。食品を腐らせないよう細菌の増殖を抑える成分が含まれていますから、過度に摂取すれば必要な腸内細菌までがダメージを受けてしまいます。
みなさんが「最近なぜかイライラする」と感じたら、それは腸からのSOSかもしれません。腸を元気にして脳内を幸せ物質で満たし、おだやかな心を手に入れましょう。
幸せ物質の生産量まで左右する腸には驚かされるばかりですね。実際、心の病を患う人は腸内細菌がすくない傾向にあるそうです。「お・な・か・は・す・き・や・よ」を覚えて、さっそく腸がよろこぶ食生活をはじめましょう。