「幸せ物質」をつくるのは脳ではなく、腸だった

答えてくれる人

医学博士

藤田紘一郎先生

1939-2021。寄生虫学、感染免疫学、熱帯病学を専門とし東京医科歯科大学名誉教授を務める。ユニークな視点と語り口から寄生虫博士、カイチュウ博士として人気を博す。著書に『笑うカイチュウ』、『腸内革命』、『脳はバカ、腸はかしこい』など多数

便の量がすくないと
うつを引き起こしやすい!?

たとえばノドが渇いたとき、コップに半分の水が入っていたら、みなさんはどう感じますか? 「水が飲める」とよろこぶ方もいれば、「半分しかない」と落胆する方もいるでしょう。人によって捉え方が異なるのはどうしてでしょうか。

わたしたちが幸福感を覚えるとき、脳内にはドーパミンやセロトニンという「幸せ物質」が分泌されています。ドーパミンはよろこびややる気を引き起こし、セロトニンは精神の安定をもたらします。これらがじゅうぶんにあれば幸せを感じやすく、不足すれば気分が塞いで悲観的になるのです。

近年の日本は、この幸せ物質が不足している人が非常に多い。うつ病患者はうなぎのぼりに増え、自殺者数は先進国の中でもトップクラスです。ゆたかで平和であるはずの日本で、いったいなぜなのか。

意外にも、その原因は脳ではなく腸にあります。じつはドーパミンやセロトニンは、腸内細菌がタンパク質を材料にしてつくり、脳まで運んでいるのです。終戦以降わたしたちの腸内細菌は減りつづけ、便の量も半分以下に。この腸内環境の悪化が、心の病を引き起こす要因となってしまったのです。

戦後、食の欧米化などの影響で日本人の食物繊維摂取量と便の量は減りつづけている。それと反比例して、うつ病患者数はここ10年で2倍以上に増加
出典:Bright-see.E:AM.j.Clim Nutr.39.823 1984/『腸内革命』藤田紘一郎(海竜社)より作成

ゆたかな腸内細菌が
心と脳を若々しくする

反対に、自殺率がもっとも低い国はメキシコです。メキシコは経済的にあまりゆたかではありませんし、治安の悪化も懸念されていますが、明るくて親しみやすい国民性です。なぜなら、彼らは腸内細菌のエサである食物繊維の摂取量が世界一で、その量はなんと日本人の3倍。やはり腸内細菌の多さが、幸せ物質の生産量につながっていることがわかりますね。

こんなに深く脳と直結している腸の活動が低下すれば、その影響は精神的な部分だけにとどまりません。恐ろしいことに、脳が老化しやすくなることがわかっています。幸せ物質が分泌されないことで脳への刺激が弱まり、認知症やアルツハイマー病などのリスクがグンと高まってしまうのです。

できることなら常に幸せ物質で脳内を満たし、これらの発症を予防したいもの。しかし、幸せ物質は脳に貯めておくことができないため、日ごろから腸内細菌を増やす努力をし、生産しつづける必要があります。毎日立派な便が出ているかどうかが、幸せと若さのバロメーターとなるのです。

わたしの好きな詩に、「ときには20歳の青年よりも60歳の人に青春がある」という一節がありますが、まさにそのとおり。腸が健康であれば心も脳も衰えません。若い柳の枝のように折れないしなやかな心を持ち、何事にもよろこびや楽しみを感じられます。さあ、今年も腸を大切にして、健康で幸せな1年を過ごしましょう。

今日からできる!
「幸せ物質」を増やすポイントはコレだ!

大豆食品をとる

納豆やおからなどの大豆食品には幸せ物質の材料となる良質なタンパク質と腸内細菌を増やす食物繊維がたっぷり。積極的にとりたい

おなかを温める

冬は腸が冷えて、腸内細菌の活動も衰えてしまいがち。カイロを貼ったり温かいものを食べるなど、おなかを温める工夫を

1日5分、外に出る

日光を浴びると乱れた腸のリズムがリセットされ、幸せ物質が分泌されやすい。夜勤やシフト制の方も習慣にすることで、リズムが整いやすくなる

以前の藤田先生はすぐカッとなる性格だったそうですが、腸がよろこぶ生活をはじめたら空を眺めるだけで幸せを感じるようになったそうです。「心の健康」までも左右する腸、大切にしない手はありませんね。

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2024/02/23 10:30:09