Edamameは世界共通語

枝豆から見えた、 和食文化のゆたかさ

ユネスコ無形文化遺産である「和食」。世界の人びとの関心は、おいしくて美しいだけの和食ではなく、和食が長寿大国ニッポンのもとを築いているのでは? というところにありました。

本誌「教えて! 荒木先生」でおなじみの編集部員さとみちゃんに、荒木先生より「和食と長寿の関係を調査せよ」との指令が。海外から枝豆が注目されているという話を聞きつけて、さっそく調査を開始しました。

和食の中でも「枝豆」に
世界が注目!

ニッポンの夏の風物詩、枝豆。ほんとうに世界から注目されているのでしょうか。こんなときには文明の利器、インターネットの出番。ためしに「edamame」と検索してみると、膨大な数のページが出てきました。なんとその数、約500万件! じつは、グーグル*1では、和食の分野で「sushi」に次いで「edamame」が検索キーワード数第2位だったのです*2。どうやら海外では、枝豆は「edamame」として定着しているようですね。おいしい、ヘルシー、調理がかんたんなど、人気の理由は、日本と同じ。

そもそも枝豆は、ほうっておけば大豆になるもの。大豆を料理に用いる文化圏は世界中に広がりつつあるものの、大豆になる前の「未成熟の若い豆を食べる」という習慣が海外では珍しいようです。日本人の勤勉さで改良を重ね、いまや枝豆専用に400種もの品種があります。

日本で枝豆の作付面積がもっとも大きいのは、新潟県です。ところが、出荷量では千葉県が日本一。それはなぜなのでしょう? 枝豆のヒミツを探りに、収穫がはじまったばかりの新潟県・弥彦村へ向かいます。

弥彦村では家庭菜園で枝豆を育てる人も多い。ホームセンターにはさまざまな種類の苗が並ぶ
地元の名物である豆菓子。年間を通じて豆類はとても身近な存在だ

*1 世界でもっとも多くつかわれているインターネットの検索サイト
*2 グーグルで海外のユーザーが検索した、和食に関するキーワードの多かった順(2013年1月~11月)

世界の枝豆事情

世界の人びとがグーグルで検索した和食の内容は、1位寿司、2位枝豆、3位ラーメン、4位刺身、5位天ぷら……。そこでさまざまな国の人びとに枝豆について聞いてみた。イタリア、ドイツなどヨーロッパの方からは「日本食レストランの人気メニュー」との回答が。アメリカではもう一歩進んで「多くのスーパーの冷凍食品売場で買える」「日常に浸透している」「サラダにくわえたり、肉料理のつけあわせにする」といった声も。さらに、海外のラーメン店や寿司屋のお通しとして出されることが多くなり、オードブルの定番ともいえそうだ。

種まきから収穫まで
すべて手作業

弥彦村は、新潟県中央部の日本海側に位置する人口約8500人の村。村内には多くの水田が広がり、田植えがはじまったばかり。そしてあちこちに枝豆畑が点在しています。

むかえてくれたのは、枝豆農家の丸山良正さん(82歳)。現役でいちばんのご長寿です。

「この『弥彦むすめ』からはじまって、 5月半ばから9月初めごろまでが枝豆シーズン。これから暑さに比例して、だんだんと味が濃くなっていくんだよ」

ビニールシートの下には枝豆がいっぱい。写真右奥の名峰・弥彦山からの清冽な水をたっぷり吸って枝豆が育つ
弥彦むすめの収穫は5月初旬にはじまる。これが実ると「初夏が来た」と弥彦村の人たちは感じるという
自慢の弥彦むすめを持つ丸山さん。忙しい収穫期でも、その姿はいきいきと輝いている

県内には、枝豆のブランドが50~60種類もあり、スーパーや直売所で土のついた枝ごと売られています。玄関先では枝豆を鞘から外す光景が見られ、食卓には、常にゆでた枝豆が置いてあります。なんと、ひとりでどんぶり一杯食べるんだとか。「日本でもっとも枝豆を食べているのが新潟県人」とはJAの方の弁。なるほど。だから新潟県では枝豆の出荷量がすくないんですね。あまりのおいしさに県内で食べてしまうなんて、さすが枝豆王国!

「種まきは1月下旬、まだまだ雪が積もっているころにはじまって、収穫まですべて手作業ですよ。腰ほどの高さのビニールハウスの中を、はいつくばるようにして苗を植えるんだ。暑い時期はハウスの中に風を通してやらねばならないし、涼しくなればビニールを閉じる……手間はかかるよ。でも、枝豆はおいしいからね」

こう語る丸山さん。その笑顔がなんとも印象的です。腰はまっすぐに伸びて、元気そのもの。広い畑を指して「ここ全部自分で苗を植えたんだ」と話す姿は、とても80代には見えません。まさに健康長寿のお手本です。

朝収穫し、午後には出荷。早どりの弥彦むすめは、豆と豆の間にくびれがある
出荷用に枝豆を水洗い中

長寿を支える和食文化に
センイが大活躍

「枝豆=ヘルシー」というイメージはあるものの、具体的にはどんな栄養素が含まれるのでしょう。管理栄養士で料理家の堀知佐子先生に伺いました。

「枝豆は、栄養バランスに優れています。まず、タンパク質、そして葉酸やカルシウムも多く含んでいます」

管理栄養士・料理家
堀知佐子氏

調理師専門学校での栄養学・料理講師を経験後、独立。大手食品会社などの顧問を多数務める。食とアンチエイジングの関係を研究する第一人者である

大豆イソフラボンも有名ですね。男女問わずとりたい栄養素が盛りだくさんです。

「じつは、食物繊維も豊富。豆というと繊維質のイメージはないかもしれませんが、レタスや白菜、セロリよりも食物繊維を多く含んでいるのです*3。血糖値の急激な上昇を防ぐ役割があり、最近研究が進む腸内環境の向上に、大いに期待が持たれています」

新潟名物、コシヒカリでつくった枝豆ごはん。栄養バランスがよく、長寿のもとになる和食

豆に食物繊維が多かったとは、驚きです。そういえば、枝豆が熟した大豆は、和食に欠かせないもの。長い歴史をかけて、大豆から味噌、醤油、豆腐、納豆などすばらしい食品をつくりだしてきました。和食には、食物繊維や発酵食品がたっぷりだから、日本人の長寿に大きな貢献ができたのでしょう。和食、そして枝豆は、世界に誇るすばらしい日本の文化なのですね!

*3 可食部100g中の比較

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2024/04/28 13:57:10