沖縄県大宜味村。本島北部、緑深き「やんばる地域」に位置する人口3300人ほどのこの小さな村は、なんと村民の約20人にひとりが90歳以上。「長寿日本一の村」を宣言し、国内外のメディアや研究者が熱い視線を送っています。
本誌「教えて! 荒木先生」でおなじみ、新人編集部員のさとみちゃんは荒木先生より「大宜味村の長寿の秘訣を調査せよ」との指令を受け、急遽現地へ。まずは地元でも有名な料理自慢のおばぁ、宮城ハナさん(90歳)のお宅にお邪魔します。


コンブは「だし」ではなく、
立派な具材のひとつ
那覇空港から車で2時間。美しい赤瓦の家々が並ぶ大宜味村は、1月末にも関わらず気温24℃。満開の桜はまばゆいばかりです。

今日は旧正月の元旦。「大宜味の料理を知りたいならハナさんのところがいい」、そんな噂を聞きつけ親戚中が集まる宴の席にご招待いただきました。
「あらいらっしゃい! 宮城ハナです、よろしく。90歳ですよ。ハッハッハッハッ」
快活な笑い声でむかえてくれたハナさん、すくなくとも20歳は若く見える! まさに健康長寿を地でいっています。
大宜味村ではいまも、旧正月にはおばぁから曾孫まで家族みんなで集まるのがならわし。宴でふるまわれる料理はすべてハナさんがひとりでつくります。


台所をのぞくとはやくも大きなコンブがボウルに用意されていました。この村では昔から色々な海藻を食べるんだとか。
「昔は潮が引く時分に海に出てウミブドウをとったよ。岩場ではヒジキもアーサもとれるし、海藻はほとんどここらのもの。けどコンブだけは北海道のさ。なぜだろうねえ」
そう。沖縄は国内屈指のコンブ消費県であるにも関わらず、食卓にのぼるのはほとんどが北海道産。これには深い理由があります。
じつは熱帯地域ではあまりコンブがとれません。しかしかつて琉球王国は北海道から清朝へ向かうコンブの交易ルート(通称「コンブロード」)の最後の寄港地でした。そのため伝統料理と組み合わせた独自の調理法が発展。いまもその名残りが残っているというわけです。
本土ではおもに「だし」としてつかわれますが、こちらではコンブは立派な具材。煮ものにも汁ものにも炒めものにも、かならずコンブが入ります。


日が暮れるとお子さん、お孫さん、そして可愛い曾孫たちがぞくぞくと集まってきました。「これ洗いなさい」、「チーイリチーお皿に出して」、「ニンニクもってきなさい」と厳しく指示をだすハナさん。
「できないことは手伝うけど、基本的には任せる。いちばん偉いのはおばぁだから」とはお孫さんの弁。
年長者を年寄り扱いせず、畏怖の念さえ抱き、「敬いの心」を持って接する。これも日本一の長寿を支える要因のひとつかもしれません。
コンブの流通経路「コンブロード」

鎌倉時代中期、北海道の松前と本州の間を交易船がゆきかうようになると、コンブが庶民の口に入るようになる。その後ルートは富山や小浜へ伸び、瀬戸内海をとおって「天下の台所」大阪に運ばれた。江戸時代には薩摩藩、琉球王国を中継した清朝との貿易航路が完成。これをシルクロードになぞらえ、「コンブロード」とよぶ。現在でも富山や沖縄ではコンブ食が盛ん。
センイを毎日とることが
長生きの第一歩
元旦の食卓の主役は、「チーイリチー(豚の血をつかった野菜の炒め煮)」、「テビチ(豚足の煮もの)」、「ソーキ汁(豚のあばら肉のスープ)」の3品です。
豚肉がつかわれているので高カロリーな印象を受けますが、味は意外とあっさり。コンブや地場の野菜もふんだんで、どれもとってもおいしいです。

長年、大宜味村で長寿の要因を探りつづけている名桜大学の平良一彦先生はこうした料理の特徴を次のように分析します。
「沖縄はコンブを北海道の5倍も食べます。コンブは豚肉と相性がよく、互いのうま味や栄養を引きだしあう。もちろん食物繊維も特筆ものです。食物繊維は便秘などの問題を解決して腸内細菌のバランスを整え、脳にまでよい影響を与えるなど、その効果はたいへんすばらしい。健康を保つにはまず腸がいちばん大事ですからね」

医学博士
平良一彦氏
名桜大学客員研究員・非常勤講師。琉球大学名誉教授。沖縄の健康長寿の要因を食、気候、風土、社会生活、人間関係、歴史などあらゆる角度から長年にわたって追跡研究。健康と観光をテーマにした「やんばるヘルスプロジェクト」の代表も務める
なるほど! 健康のカギは腸にあり、腸を元気にするには食物繊維が絶対条件。そして大宜味村では、その食物繊維を豊富に含むコンブを毎日食べていると。そりゃあ長生きできるわけですね。
「また大宜味村は野菜の摂取量も秀でています。秋田県のある農村と比較すると3倍も緑黄色野菜をとっている。じゅうぶんな量の野菜を食べて、さらにコンブなどの海藻で食物繊維を補っているわけです。大宜味村の人たちはただ長生きというだけでなく、80歳、90歳を越えても驚くほど元気でしょう? その理由のひとつが食生活にあることは間違いありません」
見習うべきところがいっぱいあるんですね。さて、そろそろ宴もたけなわ。泡盛もすすみ、ハナさんは小さな曾孫たちと戯れながらご馳走に舌鼓です。わたしもおばぁに教わった食物繊維たっぷりのコンブ料理を、さっそく明日からつくってみようと思います。

