87歳、足の指までぽっかぽか

喜界島のミネラルは
サンゴ礁の贈りもの

全国のぽかぽかご長寿さんを紹介するこのシリーズ。

今回、紹介するのは日本最高齢116歳の女性が生まれ育った鹿児島県・喜界島。東シナ海と太平洋の境界上に位置する奄美群島の北東部に浮かぶ外周48.6kmの小さな島だ。

海岸沿いは岩のようなサンゴが、陸には巨大なガジュマルやサトウキビ畑が広がる自然ゆたかなこの島には、どんな長寿のヒミツがあるのだろうか?

サトウキビの収穫最盛期である3月、取材班は喜界島へ飛んだ。

サトウキビを揺らす強い風
「南の島」は体感温度5℃

3月上旬の喜界島は最高気温14℃。しかし、風速9mの風により体感温度はわずか5℃。南の島と思い薄着で来た取材班はあわててコートを着こんだ。この寒さの中、島のお年寄りは体温をぽかぽかに保ち、免疫力が高く病気と無縁だという。そんな「ぽかぽかご長寿さん」に会ってぽかぽかの秘密を聞くのが今回の目的だ。

さっそく車を走らせると、4mもの高さのサトウキビ畑に到着。収穫中の男性に声をかけた。日焼けした肌が健康的な向井康治さん(52歳)。握手すると、強風の下にもかかわらずぽかぽか温かい!

「からだに悪いところ? ないよ。悪いのは顔だけ(笑)」

冗談を飛ばしながら、サトウキビの皮をサッと削ってくれた。かじると甘い汁がジュッとあふれる。この汁を煮つめてつくる黒糖は島の基幹産業だ。

「島の土はサンゴからできているからね。ミネラルが多いの。味が違うでしょ」

わずかに花の蜜のような香りがして、じつにおいしかった。

サトウキビの汁を煮つめてつくる黒糖はミネラルの塊。先人はその効用を知っていたのか、昔は薬としてとり引きされていた

近くでは、松山吉二さん(83歳)キヨさん(82歳)夫婦が土を耕していた。白ごまを植える準備だそう。

「僕らはひ孫が7人。長生きするとにぎやかだね。長寿のコツ? あっはっは。島の野菜を食べて、黒糖つまんで、たまにゲートボール。それだけだよ」

その後もあちこちで声をかけるが、地元の元気なお年寄りはみな手が温かく体温は37℃近い。しかし、その秘訣を聞いても「特別なことはしていない、島の野菜を食べているだけ」とのこと。亜熱帯の気候が体温を高く保つと当初は予想していたが、この寒さではそれも違うらしい。いったいなにがからだを温めているのだろう。

松山吉二さん(83歳)キヨさん(82歳)夫婦。日焼けした肌に笑顔が映える。キヨさんは血圧も125/70といたって健康で入院経験もないという。手はもちろんぽかぽか
島をすみずみまで案内してくれた朝日酒造の外内淳さん(58歳)。体温はさすがの36.4℃。「黒糖焼酎はお湯割りがおすすめです。からだがぽかぽかになりますよ!」
日本最高齢の田島ナビさん(116歳)と握手。手はガッシリと力強くぽかぽか

その理由は意外にも「土」と語るのは、土壌研究の第一人者・渡辺和彦氏。

「火山灰や溶岩由来の土地と異なり、喜界島はサンゴ礁が隆起した島。サンゴに含まれる海のミネラルが土壌をゆたかにします。これが長寿のカギと言えるでしょう」

渡辺和彦氏

(社)食と農の健康研究所・理事長兼所長。土壌ミネラルの専門家。東京農業大学、東京農工大学ほかで客員教授・非常勤講師を務める。『ミネラルの働きと人間の健康』『作物の栄養生理最前線』など著書多数

島の土で育った農作物はミネラル満点。これが代謝を助け、からだをぽかぽかにするというわけだ。いわば、喜界島の土それ自体が健康長寿の秘薬なのだ。

喜界島はサンゴ礁が隆起してできた島。いまも年間2mmずつ隆起している

ミネラルとは?

カルシウム、鉄、亜鉛など微量元素の総称がミネラル。運動と併用することで代謝を助け体温を上げたり、長寿ホルモンを活性化するなど長寿と密接な関係にある。ところが戦後、増産を目的に化学肥料や農薬がつかわれたため土が痩せ、農作物の栄養価(ミネラル)は低下。さらに欧米食やミネラルをとり去った精製済み食品が台頭した結果、現代人は慢性的なミネラル不足に。50年前は36.89℃だった平均体温が現在36.20℃に低下していることと無関係ではない。

ピーマン、キャベツ、もやしなどさまざまな野菜も同様に栄養素が低下
(出典:「日本食品標準成分表」より作成)

サンゴの下で大笑い
裸足のぽかぽかおばあちゃん

サンゴ礁の島、喜界島。家を囲む石垣もサンゴ製で、表面に浮き出たサンゴの骨格が模様をなす。庭にはパパイヤやタンカン、ハイビスカスが。風が非常に冷たくコートを手放せないが目に映る景色は南国情緒たっぷりで美しい。

喜界島の石垣は天然のサンゴを積みつくる

ひときわ大きなサンゴがトンネル状になった場所で笑い声が聞こえた。そこには、裸足にサンダルをひっかけた姿のおばあちゃん! 寒くないですか?

「いつも外に出るときはこの格好よ。靴下はほとんど履かないね」

近所に住む新恒子さん。年齢を聞いてビックリ、87歳。腰はピンと伸びて、元気な言葉がぽんぽん飛び出す。頭もからだもじつに若々しい。「持っていく?」と庭のタンカンを渡してくれた手も温かく、体温は36.5℃。足を触らせてもらうと小指の先までぽかぽかだ。冷たい風の中で立ち話していた人とは思えない。

新恒子さん(87歳)。人間の体温は生後1年がもっとも高く、歳とともに低下して免疫力も下がるが、新さんの体温は赤ちゃんの平熱と同じ36.5℃!

「朝食後に黒糖を食べて、近所を散歩したらお昼寝。のんびり暮らしてるよ。気が向いたら午後はゲートボール。今日はニガウリを植えたくて苗を配達してもらったけど、つい立ち話しちゃった。あっはっは」

ニカッとした笑顔にこちらの心までぽかぽかになる。島の人はみな気さくで、あちこちで明るい笑い声が響いている。

からだと心を温かく保ち、健康で長生き。ぽかぽか島・喜界島の長寿のヒミツは、ミネラルたっぷりの土、黒糖、畑仕事やゲートボールなどの運動、昼寝、そしてよく笑うストレスのない暮らしによって叶えられたものだった。

取材協力

朝日酒造(株)
鹿児島県大島郡喜界町湾41-1
☎0997-65-1531

喜界島で創業100年の黒糖焼酎メーカー。原料のサトウキビ栽培や黒糖製造も一貫しておこなう。「サトウキビを機械で収穫すると切断面が増えて味が落ちるので、人の手で刈っています。よい焼酎づくりのため手間は惜しみません」と4代目の喜禎社長

single.php

2024/04/28 17:49:44