北の大地に、みじかい夏がやってきた

クマザサの夏。
刈り子たちの収穫に密着

手つかずの原生林が果てしなく広がる北海道、大雪山系。みじかい夏の間、この雄大な北の大地をクマザサが青々と埋めつくす。旬の季節の到来だ。その天然のクマザサを刈りとる仕事を担うのが「刈り子」とよばれる人びと。7月上旬、その刈り子とともに、大雪山中の奥深くへ。

大雪山系に育つクマザサは
強靭な生命力の結晶

アイヌ語で「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」とよばれる奥深い土地。それほど太古に近い、美しい大自然が残る場所である。澄みきった空気、ミネラルゆたかな雪どけ水、肥沃な土壌。その恵みを存分に受けたクマザサだけが『北の大地の青汁』の原材料となる。

7月初旬、朝7時。大雪山系のふもとのクマザサ加工場に刈り子はふたりで姿を現した。彼らは安全のため基本的にペアを組んで山に入るのだ。

会うなり駄洒落を飛ばして笑わせる陽気な橋脇悦雄さん(63歳)は刈り子歴5年。がっしりした大きなからだは、まるで熊のごとき迫力だ。いっぽう穏やかな笑顔の伊藤明さん(78歳)は刈り子歴3年。20歳のころとかわらないという若々しい体型、しゃきっと伸びた背筋は年齢を感じさせない。山菜やキノコとりも得意な山の達人だ。

「クマザサは初夏から真夏のいまがいちばんの旬なんだ。でも大雪山の夏はほんとうにみじかい。だから今日もドッサリとらなきゃな!」

そう張りきる橋脇さん。収穫したクマザサを入れる麻袋を積み、山へ向けて軽トラックを走らせる。

クマザサ加工場で収穫用の麻袋を受けとり、出発

「国道沿いにもササは生えているけど絶対にとらない。排気ガスの影響があるからね。それに農薬がつかわれている畑のそばのものもダメだ」

伊藤さんがそう語るとおり、大自然の中で自生するクマザサだけを求めて、軽トラックは山の奥へ、奥へ。

その日の収穫場所は、ふたりで相談して決める。前に見つけた、いいクマザサの茂る場所。そろそろほどよく成長していそうな場所……。長年の経験と勘をはたらかせて向かった場所で車を停め、麻袋を腰にくくりつけて林道を歩く。

「クマザサは7キロから10キロもある長い地下茎を持ってるんだ。だから土壌の養分をたっぷり吸い上げて、力を溜められるんだな。それで枯れずに冬を越せるのさ」

大の男の姿が見えなくなるほど丈高く群生するクマザサ。その中へ分け入り、収穫する

橋脇さんがそう教えてくれると、伊藤さんも言葉を添える。

「厳しい寒さに耐えるだけの栄養を溜め、春にまた滋養を蓄えるから、クマザサはいま、最高に栄養たっぷりなんだよ。青汁にしたら、人間のからだにもいいに決まってるさ」

そんなふうに話しながら歩いていても、ふたりの行動は素早く敏捷だ。いいクマザサが生い茂る斜面を見つけるや、すぐに飛びこみ、猛然たるスピードで剪定バサミを操る。とるべきクマザサを見極めるのに時間はいらない、一瞬だ。

「刈るのは若く青々としていて、ずっしり重みのある葉。それが栄養と食物繊維たっぷりの印なのさ。それに1本の枝に葉っぱが9枚ついていれば最高だ。枯れた部分は青汁の原料にできないから、ていねいに切って落とすし、若すぎる新芽は来月にまわして刈るよ」

そう橋脇さんが言うとおり、大雪山系のクマザサは食物繊維がぎっしりつまって、とにかく厚く、強い。そのササの枝をハサミでパチン、パチンと力強く切る鋭い音が山の中にこだまする。

「ハサミを動かす回数? 1日に3~4万回だろうね。最初は手が痛くなったもんさ。繊維が強くて刃もすぐにナマクラになるから、そのたび研がなきゃいけない」 

光に透けるクマザサの葉。ぎっしりつまった繊維が見える

熊やスズメバチは危険だけど、
同じ大自然に共生する仲間

ク­­­マザサは日本全土に自生するが、ここ北の大地ほど膨大に群生する土地は他に類を見ない。だから、とりつくす恐れはないが、刈り子にはひとつの信条がある。「いいクマザサを見つけても半分だけとって、半分は残す。それは山の神さまの分だから」。自分たち人間は自然の一部を分けてもらっているという謙虚な考えだ。しかし、山は恵み深いだけではない。さまざまな危険も秘めている。

「クマザサは半分刈って、半分は残す。それは山の神さまの分だからね」

大きなヒグマに出くわすこともあれば、凶暴なスズメバチに刺されたショックで47時間にもおよぶ手術を受けた刈り子もいる。クマザサの収穫はときに文字どおり命がけの仕事なのだ。伊藤さんも腰にいくつも熊よけの鈴をつけているが、意外な言葉を口にする。

「でもね、熊もハチもヘビも人間も同じ自然の中で暮らし、共存してるんだ。だから、こっちが脅かさなければ、むやみに襲ってくるもんじゃない。怖がる必要はないさ」

熊がなわばりを示すため、つめあとを残した木。よく見ると親子連れらしく、小熊のつめあとも下にある
剪定バサミや複数の熊よけの鈴など伊藤さんの大事な腰道具

伊藤さんの言葉に、「そう、自然体が大事なんだ」と橋脇さん。

「俺も熊と鉢合わせしたことがあるけど、グッとにらみ合いながらも、お互い自然にそっと離れていって、なにごともなかったよ」

そう話すうちにもクマザサはどんどん刈られ、腰に下げた麻袋はすぐいっぱいに。1日の収穫は約15キロ入る麻袋で6~7袋・約100キロ、多いときは130キロにもなる。過酷といえる重労働だが、伊藤さんは「いいや」と笑う。

ドッサリ収穫できる季節は
旬のいましかない

「とにかく山が大好きなんだ。だから、この仕事が楽しくて仕方ない」

「子どものころから山が大好きなんだ。だから刈り子の仕事が楽しくて仕方ない。山に入ると元気をもらえるから疲れもしないよ。1日があっという間だ。それに、いいクマザサがこんなにたくさんとれるのは、旬のいましかないからね」

いっぽう橋脇さんもこう話す。

「毎日、このおいしい空気の中を歩いてクマザサを刈る。最高にいい運動さ。だから刈り子にからだの悪い人はいないね。俺は自家製のクマザサ茶も飲んでるから、健康そのもの。風邪ひとつひかないよ」

そう語る彼らがその日の収穫を終え、加工場へ届けるのは夕方の5時ごろ。こうして1日の仕事をやりとげ、ふたりの刈り子は家路につく。そしてまた明日、活力と誇りに満ちて、あの山を目指す。

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2024/04/28 6:24:21