加賀百万石の城下町・金沢は、美人の多いまちである。その美しさを生みだすもとは、気候、風土、食文化のどこかにきっと理由があるはず。そこで気がついたのが、醤油や味噌醸造にくわえ、かぶら寿司や大根寿司などこの土地ならではの発酵食文化の活発さだ。健康と美の秘訣は食にあり。その思いのもと、金沢大野の「ヤマト・糀部」を取材した。
「発酵食美人は腸美人」
美を導く「一日一糀」の習慣
日本海に面した港町、金沢大野は野田、銚子、龍野、小豆島に並ぶ醤油の五大産地のひとつ。北前船が運んだ麦や大豆に、能登の塩、白山水系の伏流水を生かし、江戸時代より醤油づくりが発達。加賀百万石の味を支えてきた発酵のまちだ。
この地で醤油や味噌づくりを営むヤマト醤油味噌は明治44年創業。現在の4代目は、腸内環境を整える「一日一糀」の習慣に注目した。そして、糀をとる食習慣の大切さを地元の主婦たちにも実感してほしいという思いからつくられたのが「ヤマト・糀部」だ。糀部のスローガンは「めざせ、発酵食美人」で、毎月一回、糀をつかった料理教室を開催している。
この活動は、マスコミにもとりあげられ、毎回キャンセル待ちが出るほどの人気。教室でむかえてくれた講師の伊藤まゆみ先生はこう語る。
「塩糀、醤油糀など、毎回ひとつの発酵調味料をとりあげて料理を学んでいただいており、今日のテーマは甘酒。砂糖のかわりに甘酒をつかうことで栄養価が上がり、味つけもかんたんで時短になります。いまでは甘酒はスーパーなどでも買えるので、気軽に試すことができます」
「そして発酵食の持つ健康効果も魅力のひとつ。わたしの場合は、糀の持つさまざまな効果のおかげで自然に体重が10㎏減り、その後、リバウンドもありません。それに小児アトピーのため冬場はかさついていた肌や髪も、しっとりうるおってきました」
さて教室には20名近くの女性が集合。なかには母娘での参加もあり、幅広い年代の発酵食への関心の高さがうかがえる。今回が初参加という市川純恵さんに話を聞いてみた。
「かぶら寿司はよくつくりますが、もっと発酵食品のつかい方を学びたいと思い、はじめて参加しました。塩糀や醤油糀、甘酒など発酵食品をつかえば、過度な調味料は不要だというのもうれしいですね。それに糀の力でお通じをよくしたいし、ノーメイクだとしみ・そばかすが気になる肌も美しくなればと願っています」
発酵食は「未来食」。健康と
美のために、いまこそ必要な食習慣
市川さんと同じ班で調理中の三谷純奈さんは7回目の参加。明るい笑顔が素敵だが、以前は全身の吹き出物に悩んでいたという。
「皮膚科も受診しましたが、薬ではなく食で改善したいと思って、この料理教室へ通い、一日一糀を実践しました。すると1カ月で肌の調子がとてもよくなったんです。からだの中を整えることで自然に肌をいやせたと実感しています」
同じく家庭でも発酵食をとり入れているという齋藤智香子さんにも話を聞いた。
「東京から金沢へ越してきた縁もあり、発酵食文化に興味を持ちました。いまでは家でも発酵食を欠かさず、一日一糀どころか『一日三糀』。そうしたら便秘がちだったお通じの調子がよくなり、肌もキレイになりました。それに伊藤先生と同じく5kg以上痩せたんです」
三谷さんも齋藤さんも発酵食を日常的にとることで食生活を改善し、自身が求める体調やお肌を手に入れたという。和食や発酵食など忘れられかけていた古きよき食文化を見直し、学ぶことはこれからますます大切になるに違いない。
最後に、人一倍熱心に調理にあたっていた徳田留美子さんが、こんな夢を語ってくれた。
「夫婦で健康に暮らしたいし、将来子どもが生まれたら、糀をつかって田舎のおばあちゃんみたいな料理をつくってあげたい」
そのとおり、発酵食は伝統食でもありながら、「未来食」。子や孫にしっかり伝えていきたい大切な文化だ。そして年齢を重ねても、からだの中から美しく、すこやかな「発酵食美人」でありつづけるために欠かせない、日本が誇る尊い知恵なのである。
日本が誇る発酵食品には
若さを保つ効果がある
味噌、醤油、納豆、ぬか漬けなど日本は世界に誇れるほどゆたかな発酵食品を生んできた国。糀菌は日本の「国菌」と認定されています。なぜ発酵食品が健康によいのかといえば、腸内の善玉菌を増やし免疫力を高めてくれるはたらきがあるからです。
最近の研究では、この善玉菌、悪玉菌、日和見菌の腸内バランスが大切なことがわかってきました。腸内環境を花畑に見立てて腸内フローラとよんでいますが、糀や麹を利用した発酵食品は、酵素が豊富で腸内フローラを活性化し、健康で若々しさを保つ抗酸化作用もあるのです。
本誌連載でもおなじみのカイチュウ博士
藤田紘一郎先生