下の写真と数字を見てほしい。これは、それぞれの食材の国内生産量を国内消費量で割ったもの、すなわち食料自給率を表している。米こそ自給率100%だが、ほかの食材の多くを外国から輸入しているのが見てとれる。
かつては舶来品とよばれ、希少なものだった輸入品がここまで浸透した理由はなにか? それを探りながら、わたしたちの食の現状を追い、そのゆく先を読む。
※農林水産省ホームページ「クッキング自給率」より計算
※特集の食料自給率はすべてカロリーベース
日本の主食は、いまやパン。
食文化の変化で輸入も増
輸入品なしに、和食をつくることはむずかしい。こう聞くと、驚く人も多いだろう。しかし、前ページに示したように、納豆や醤油の原料である大豆や、ヒジキ、ゴマなどは大半が海外産だ。これが和食以外になると、もともと国内でとれない食材を使用する分、輸入品の割合はさらに上がる。「米以外はみな輸入品」という献立も極端な話ではない。事実、日本の食料自給率はわずか39%。先進国のなかでも極めて低い水準だ。
この自給率、じつは1961年の時点では78%あった。それがここまで低下した理由はなにか。輸入自由化や減反政策など政治の影響もあるが、最大の要因は「消費者の選択」にほかならない。
主食の選択を例にとってみよう。戦後、海外文化への憧れや簡便性からパンやパスタを選ぶ人が増えた。2011年には1世帯あたりの米とパンの消費額が逆転。原料の小麦は北海道や九州でも生産されてはいるが、消費量の約9割は輸入品。パンやパスタを食べるほど自給率も下がる仕組みだ。
そして、わたしたちは安さを求め輸入品を選んできた。現に、あるスーパーでは国産のサーロインステーキ肉が100gあたり498円に対し、オーストラリア産は239円。半額以下という圧倒的な安さだ。消費者の節約志向は外食や持ち帰り弁当などの中食にもおよび、それらを製造する企業もコストを削減できる輸入品を多用することになった。
食文化の変化と、安さの追求。このふたつを背景に、わたしたちは食材の6割を海外に頼る現状をつくりだしたのだ。
中国産野菜、BSE……
事件がもたらしたもの
食料の大半を輸入でまかなうことは、危険もはらむ。なぜなら、輸入品はひとたび輸出国に問題が起きれば、かんたんに供給が断たれる不安定なものだからだ。
たとえば、昨年10月下旬にアメリカ西海岸で港湾労使交渉がはじまった影響で船便が滞り、国内のファストフード店でジャガイモ加工品が不足する事態が起きた。店先に掲げられた「ポテトのMサイズありません」という張り紙をニュースで見た読者も多いだろう。また、2002年には中国産の冷凍ホウレンソウから基準値を大幅に超える農薬が検出され、翌年にはBSE(牛海綿状脳症)に感染した肉牛が見つかってアメリカからの牛肉輸入が止まり……ときりがない。
これらの事件は、わたしたちが輸入品に頼ったままではいつ食料不足に陥っても不思議ではない、と語りかける。この点は国も危惧しており、自給率を引き上げようと莫大な予算がかけられている。
では、じっさいの消費者の動向はどうか? 東京の大崎駅近くで65年間営業をつづける石井青果店の店主に聞いた。
「輸入品の事件が多発した十数年前から、『海外産はなにが起こるかわからない』と国産に回帰する流れが強くなりました。もっとも、ホテルやレストランに卸す同業者は、あいかわらず安い輸入ものばかり売れると言いますが」
国が自給率の向上を叫ぶいっぽう、消費者は政治的な思惑とは別に、みずから国産を選びはじめているのだ。
輸入が増えたもうひとつの理由
「賞味期限が切れた」「口に合わない」などの理由で食べずに捨てられる食品は、年間1700万トン。日本が1年に輸入する食料5800万トンの3割にあたる量を廃棄している計算になる。「お残し」の多さも輸入を増やす一因であり、これを減らすだけで食料自給率は上がるといわれている。
限られた家計のなか、
選ぶのは輸入か、国産か?
そんな国産への需要の高まりを受け、いま支持を集めているのが、東京・表参道で開かれる「青山ファーマーズマーケット」だ。農家が直接野菜などを売るこの催し、スーパーの値段より高い商品も多いが、それでも毎週土日だけで3万人を集める。
出店者の潮田武彦氏(39歳)は、品質と価格についてこう話す。
「うちのニンジンは、子どもが試食をおかわりするほど味がいいですよ。1袋400円でもよく売れます。そこまでの味を出せるのは、手間をかけているから。もし、1袋200円のスーパーの価格に合わせるとなると、手間を減らすために農薬を大量につかうことになる。それでは味も知れています」
たとえ農薬をつかい生産性を上げても、採算ギリギリか赤字となるそう。「安ければいい」という消費者の考えが作物の味を落とし、農家を廃業に追いこむのだ。
国産への意識が高まるなか、つくり手がいなくなっては意味がない。国内の農業や漁業、畜産業を下支えする意味でも、ていねいにつくられたものは積極的に手にとりたいものだ。
けれど、食にいくらでもお金を出せる人はまれだ。わたしたちは、値段や品質などさまざまな要素の間で揺れながら、なにを選べばよいかと悩んでいる。
輸入か、国産か? 安さを基準に選ぶ時代から変化しつつあるいまこそ、値段や原産国で単純に判断せず、自分なりの価値基準を持って選びたい。そのためには、食品そのものや表示をよく見る、どこの誰がつくったものかを考えるなど、見る目を養うことが大切だ。
選ぶのは、ほかでもないわたしたち自身なのだから。
外食産業の挑戦
コスト優先の外食産業も、食材の原産国を見直す動きがある。長崎ちゃんぽんを提供する(株)リンガーハットは、売上低迷を脱するため創業時のおいしさにもどすと決め、2009年に野菜の国産化を実施。商品単価は40~100円の値上げとなったが、輸入された冷凍野菜には出せないシャキシャキ感や味のよさが人気で、客数・売り上げとも大幅に伸びている。