近年、笑いがもたらす健康効果に注目が集まっている。ストレスの発散だけでなく、さまざまな病気の予防になるなどいいことずくめなのだ。しかしいま、新型コロナウイルス感染症の影響でわたしたちは笑う機会を失っている。これは非常にもったいない。笑うだけで福がやってくるならば、実践しない手はない。
最近笑っていますか?
認知症予防に笑いが効く
「人は歳をとるとともに笑いが減り、笑わない人には認知機能の低下傾向が見られます。つまり、笑わない人から将来認知症を発症するといっても過言ではないのです」
そう話すのは、福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授の大平哲也先生だ。
笑いは発言や行動を一瞬で理解する、高度な脳機能をともなう行為。よって、日常的に笑うことは脳の活性化にもつながってくる。
「認知症の危険因子となる動脈硬化を進行させないよう糖尿病や高血圧などの生活習慣病を防ぐことも重要です。じつは食後の血糖値の上昇をゆるやかにしたり血圧を下げたりするのに笑いが有効であることから、認知症を予防すると考えています」
大平先生はこの笑いの効能に注目し、定期的に開催する健康教室で「笑いヨガ」をとり入れているという。
「おもしろくなくても笑うと不安や不眠、うつといった症状が改善されることが確認されています。いろいろなことを試していき着いたのが、インド発祥の笑いヨガ。呼吸法と連動した笑う体操です」
医学博士
大平哲也先生
福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授、日本笑い学会理事。研究分野は循環器疾患の疫学、予防医学、健康科学、心身医学。研究経歴に、「笑い等のポジティブな心理的介入による生活習慣病予防についての研究」などがある
介護の経験から必要性を実感
笑いヨガで心もからだもスッキリと
そこで、笑いヨガを実践する「ラフタークラブなごみ」を訪ねて、静岡県富士市へ。集合時間前から50~80代の男女11人が公園の広場に次々と集まり、「おはようございます」「久しぶり!」と元気なあいさつが飛び交った。クラブを主宰する小林和恵さんは2年半前にテレビで笑いヨガを知り、インストラクターの資格を取得した。
「両親の自宅介護を経験したとき、先が見えなくて心底つらかったんです。周りにも同じ思いの人が多くて、介護をする人にもされる人にも笑いが必要だと思いました」
介護施設等で活動をおこなっていたが、コロナ禍になって中止に。オンラインで実施したものの、参加者同士が直接会って笑うことが大事だと思い、昨年7月からは屋外での開催にこぎつけたという。
みんなで大きな輪になり、リズムよく手拍子しながらスタート。思い思いに歩きまわりながら、「ホッ、ホッ。ハハハ。ホッ、ホッ。ハハハ。イエーイ!」と声を出す。小林さんによると、横隔膜を広げ酸素をより多くとりこむ掛け声だそう。手拍子や両手を上げるかんたんな動きから徐々に激しくなり、子どものようにはしゃいで動きまわったりしていくうちに全員が自然と笑いの渦に包まれた。
毎日の生活に笑いを!
意識的にとり入れる新しい年に
すっかり表情が明るくなった参加者たち。はじめて1年という杉山恵美子さんは、83歳には見えない若々しい雰囲気だ。
「最初は恥ずかしかったけど周りを気にせず笑えるようになり、いまではとっても楽しいですよ。そうしたら、からだの緊張がとけてひざの調子までよくなって驚きました」
夫婦ふたり暮らしだった伊東雅恵さん(63歳)は2年前にご主人を亡くし、心がすさんでしまった。そこで、笑いヨガに参加し、落ちこんだ生活をかえることができたという。
「当時は悲しくてふさぎこんでばかりいたんです。でもこのままじゃいけないと思って、意識して落語やテレビのお笑い番組を見るようにしました。誰もいないから思いっきり笑うようになって気持ちがスッキリ。将来自分に介護が必要になって、子どもたちに迷惑をかけたくないですからね!」
イキイキと語るその姿は健康そのもの。その場にいるだけで取材班も思わず笑顔になった。
笑いヨガや落語、お笑い鑑賞のほか、「笑うこと自体に意味があるため、犬を飼う、子どもとふれあうなど自然と笑顔になれる行動も効果的」と大平先生は言う。
笑うことは、誰でも手っとりばやくとり組める健康法。自分に合った笑いをたくさん見つけて、2021年は大いに笑って健康な年にしたいものだ。
笑いのエクササイズ
3つの効果(顔の筋肉を動かす・唾液を出しやすくする・食べる意欲をアップさせる)があるため、口腔機能が鍛えられ誤嚥(ごえん)予防にもつながる(ラフタークラブなごみ推奨)
ライオン笑い
舌を思いっきり突き出し、手を顔の横に置いて「ハハハハハ」と笑う
梅干し笑い
口に酸っぱい梅干しを入れる真似をして顔をクシャクシャにしたあと、「ハハハハハ」と笑う