ビンに残った『野草酵素』を農業に……。すっかりおなじみの野草酵素農法だが、ここミヤトウ野草研究所の周辺では、また違った取り組みがあるといわれている。それは『野草酵素』をつくる過程で出る野草の搾りかすや、熟成過程で生まれる沈殿物、つまり捨てるはずのものを利用した農業。
近藤会長も以前から、「捨てるにはあまりにも惜しい」と言っていただけに、興味が高まる。『野草酵素』を農業に循環させる、4件の農家を訪ねた。
甘(あま)じのない土壌が、
息を吹きかえしたんだ
新潟県妙高市で米づくりをする霜鳥武治さん(75歳)は、田んぼの土壌をつくるうえで欠かせない堆肥づくりに悩んでいた。
「むかしから、うちの土には甘じがなく*てね。すぐにヘナッてしまう苗ばかりだったんだ」
なにかいい方法はないかと試行錯誤しているときに出会った、野草の恵み。それが田んぼの土壌を、そしてお米の味を大きく変えたのだという。
「はじめはびっくりしたよ。だって、いつもの堆肥に“野草の搾りかす”を加えただけで、まるで土壌が息を吹き返したかのようだった。あんなにヘナッてた苗が、見違えるようにビッ!としてさ」
耐久力のある元気な苗が育つようになったと、霜鳥さんは語る。そしてお米を炊いたときに、さらなる驚きが。
「一粒一粒がキラキラと輝いて、口に頬張ると米のうまみがジワッと広がる。はじめて味わったとき、ほんとうにすごいものに出会えたんだと実感したよ」
霜鳥さんのつくる酵素米は、今年も上々の出来のようだ。
*無機質であるということ
20年探してやっと見つけた。
こんなすごい酵素ははじめて見たよ
続いて伺ったのは、以前本誌でも紹介したことがある長野県上田市でりんご農園を営む林正孝さん(61歳)。農業研究生時代の仲間である山口達也さん(65歳)とともに、『野草酵素』の秘める可能性について次のように語ってくれた。
「20年以上前から、農薬や化学肥料に頼る農業に疑問を持っていた。土や樹木、作物がほんとうによろこぶものは何なのか、それを研究しているうちに、酵素のはたらきに魅せられたんだ」
山口さんがそう言うと、林さんも研究生時代の話をしてくれた。
「いろんな酵素をつかって試してみたけど、いい結果には恵まれなくて。頭を悩ませていたとき、『野草酵素』に出会った。66種類も自然のものが入った酵素なんて他にはなかったし、それに実物を見れば、いい酵素だってすぐわかる。色も香りも全然違うからね。ここまでいい発酵をしているものは、ここ20年ではじめて見たよ」
さっそく野草酵素の下澱(沈殿物)を林さんの営むりんご農園で試してみると、大きな成果が!
「りんごの色や大きさ、味、香りまでよくなったんだ。そして害虫や寒さにも強い。これは樹木の代謝がよくなった証拠。微生物がしっかりはたらいてくれているんだ」
長年の研究に光が差したと山口さんは続ける。
「林さんのりんごを見てね、『野草酵素』には農業の未来を切り開く、大きな可能性があると感じたんだ。これから先、無駄のない循環させる農業がきっと主流になる。そのとき、このほんものの酵素を必要とする農家が増えるはずだ」
あらたな命を得てめぐる
“循環するものづくり”は無限大
かたちを変えて、さまざまな広がりを見せる野草酵素農法。最後に訪れたのは、新潟県妙高市の小嶋一司さん(52歳)の畑。ミヤトウ野草研究所の近藤会長も同行して話を聞いた。
「うちの畑では、きゅうりにじゃがいも、玉ねぎ、パセリなどいろいろつくっています。よく育ってるでしょう。少し不格好だけど、大きくてみずみずしいおいしい野菜ばかりなんですよ」
大きなきゅうりをていねいに収穫する小嶋さん。
「この野草の搾りかすを畑にザァーッっと蒔くと、土がふかふかになるんです。害虫にも強くなりますしね。これだけすごいものを農業につかえるなんて、ほんとうに贅沢なことだと思っています」
たしかに商品にはならないものの、『野草酵素』をつくる過程で生まれる、ぎっしり詰まった栄養の塊。そう考えると、非常に贅沢な農業だ。しかし、驚くのはまだ早かった。収穫された玉ねぎを吟味しながら近藤会長はつづける。
「じつはこの畑でとれる野菜は、すべて『野草酵素』の原料になっているんだ。だから今日の収穫も、ほんとうに楽しみだったんだよ」
「捨てるにはあまりにも惜しい」。近藤会長の言葉をあらためて思い出した。
「わたしはこのかたちをずっと目指してきた。『野草酵素』をつくる過程で出る野草の搾りかすや沈殿物で作物を育て、その作物を収穫して『野草酵素』の原料にする。その搾りかすをまた作物に……これこそ循環するものづくりといえるでしょう」
循環するものづくり。口にするのは容易いが、実現するまでには相当な苦労があったに違いない。情熱をささげる者たちが本気になって取り組むことで、はじめて可能な、未来のものづくりのかたち。近藤会長の理想がついに現実となったのだ。
今回の取材を通して感じたのは、野草酵素農法がもつ無限の可能性。今日も野草はあらたな命を得て、未来の農業へとめぐるのだろう。