北の大地の夏はみじかい。5月中旬、大雪山系のクマザサは、雪どけ水をたっぷりと吸いこんだ肥沃な土壌に姿をあらわすと、気温の上昇とともに葉をたくわえ、夏の大雪山系を青々と埋めつくす。
食物繊維をぎっしりとたくわえた、北の大地のクマザサ。なかには身の丈3mを超えるものもあるという。葉の大きさ、分厚さ、跳ね返りの強さ、そしてあざやかな色味はまさに北の大地の旬、そのもの。
しかし限られた期間の収穫で、1年ぶんの原料をどうやってまかなうのだろう。鮮度は? 色味は? 栄養成分は? とり尽くしてしまうことはないか?
今回、野草だより取材班は、その疑問をたしかめるべく取材を計画した。同行してくれたのは、原高明氏(68歳)。長年にわたるクマザサの研究から、“クマザサ博士”の異名をもち、ここ北の大地のクマザサにこだわりつづけた張本人。そんな心強い原氏の案内のもと、夏の盛りに、我われは北の大地へ飛んだ。
収穫直後のスピードが
鮮度を左右する
早朝、“刈り子”と呼ばれるクマザサ収穫のプロフェッショナルたちが、険しい山に分け入り、次々と新鮮なクマザサを刈っていく。
「この麻袋1袋に、約15kgのクマザサが入る。とったらそのまま袋につめて、朝のうちに加工場へ運ぶんだ」(刈り子歴14年のベテラン、下島一郎さん/72歳)
いくら旬の時季に刈りとっても、新鮮なまま加工しないと意味がない。荷台に麻袋をいくつも積みあげ、刈り子の運転する軽トラックは加工場へと急いだ。
クマザサ博士の原氏によると、とれたてをすぐ、加工できるのが大雪山系に加工場をおくいちばんの理由なのだという。
「最盛期で1日に平均して60袋ほど。収穫したものはなるべく速く、加工場に運びいれます。刈りとった天然のクマザサは、直射日光に弱い。だからここでのスピードが、鮮度を左右するのです」(原氏)
加工場の内部を案内してくれたのは、伊藤昌敏さん(59歳)。その後の行程を、ひととおりうかがった。
「とれたてを新鮮なまま加工するため、運びこまれたクマザサはすぐに冷凍室で保存します。そしてこのあざやかな緑色を保つには、冷凍の温度設定がキモ。温度については企業秘密、残念ですが教えられません」
とれたてのクマザサを
そのまま青汁にするには……
その後の選別は、異物や茎をとりのぞく大切な工程だから、ひとの手と目だけが頼り。つづいて熱湯によるボイル、洗浄、乾燥へとすすんでいく。
「雑菌を残さないためのボイルも、やりすぎるとせっかくの新鮮な葉が傷んでしまう。その後の洗浄、乾燥もおなじ。旬の鮮度を損なわず、とれたてのクマザサをそのまま青汁にするにはどうしたらいいのか。温度や時間など、これまで幾度となく試行錯誤をくり返しました」
ここでもう一度、葉と茎を選別したのちに、いよいよ粉砕の工程へ。3度の粉砕工程を経て細かくなったクマザサ葉は、超微粉末加工されるのを待つあいだ、大切に保管される。
「鮮度を落とさないよう、日のあたらない倉庫で保管していただいています。北の大地の自然を、そのまま味わっていただきたい。添加物や余計なものを入れたくないから、ここはこだわるところです」と原氏。そしてクマザサ博士のこだわりは、それだけではない。
「クマザサは、日本各地に群生しています。ただわたしが見てきたかぎりでは、他県ではここまで大きく成長することも、ここまで多く群生している場所もありません。つまり、この品質はミネラル豊富な雪解け水、そして肥沃な土壌で育まれるからこそ。『北の大地の青汁』が安定供給できるのも、原料資源が豊富な北海道産だから可能なのです」
北の大地の旬を
その場で封じこめる
北の大地の滋養をたっぷりと含んだ旬のクマザサを、そのまま青汁にしたい。すべては原氏のこだわりからはじまった。
「刈り子さんや加工場の伊藤さんには、ずいぶんわがままを言いました。でもそれは製品として自信をもって世に出したい、との思いが強かったから。たっぷりの食物繊維をはじめとした天然クマザサの栄養を、まるごと飲みほしていただきたいからなんです」
原氏の熱のこもった言葉に、伊藤さんがつづける。
「わたしたちがやっていることは、いまの時流とは違うのかもしれない。均一な製品を求めるなら、畑で栽培した原料をつかえばいい。キレイな緑色にしたければ、着色料や添加物など、方法はいくらでもある。でもわざわざ自生する野草を青汁にするんだから、このくらいはこだわらなくちゃ」
旬の鮮度を、その場で封じこめる。まさにその瞬間をまのあたりにした、今回の取材。あらためて彼らのこだわり、手間の多さに感謝し、我われは北の大地をあとにした。