特集・食と健康

冬はこたつでみかんでしょう

愛媛県吉田町。
父から子へつなぐおいしいみかん

冬の風物詩「こたつにみかん」。冷えたからだを温めながら、あのみずみずしくて甘い果汁が染みわたっていくのは、なんともいえない至福のとき。しかし、そんなあたり前の日常を支えるみかん農家では、ある問題に揺れていた。

みかん農家が激減
「俺が継ぐよ」 28歳の決意

愛媛県は日本一の柑橘王国。なかでも宇和島市吉田町は、江戸時代からみかんの栽培が盛んな町だ。

代々つづく農家で7代目の小清水千明さん(57歳)のもとを訪ねた。

「みかん農家も高齢化でね、わたしはまだ若い方。跡継ぎ不足で離農する人や、県外から後継者を募る動きもあるよ」

愛媛のみかん農家の7割が65歳以上で、その数はここ35年で三分の一以下にまで減少したという。

そんななか、小清水家では昨年の夏、長男の太郎さん(28歳)が跡を継ぐ決心をした。

「子どものころからみかん畑で遊んでいましたし、祖父や父の背中を見て育ちました。先祖代々守ってきたこのみかん山を、自分が受け継ぐんだと思っていましたね。迷い? とくにありませんでしたよ」

小清水千明さん(57歳)
農家の7代目。昭和30年代、曾祖父の代に柑橘に専念するようになり、現在15種類の柑橘を育てる
小清水太郎さん(28歳)
勤めていたケーブルテレビの番組制作会社を辞め、家業を継ぐことを決意。千明さんの手ほどきを受けながら、日々奮闘中

さあこれからという矢先、昨年7月7日の西日本豪雨で被災。あちこちで山崩れが起き、みかん畑も土砂に埋もれた。小清水さんも畑への道が流され、農業機械が水没し、果実が落ちたり劣化するなどの被害を受けた。

それでも「絶対にあきらめない」。自力で重機を調達していちはやく復旧にとり組んだおかげで、無事にみかんが実をつけたのだ。

お天道さまとともに
おいしいみかんを育てる

さっそくみかん畑へと案内してもらった。

「ここには3つのお天道さまがあるんですよ」

空の太陽、海から照り返す太陽、そして段々畑の石垣から照り返す太陽。そのおかげでみかんは自然と太り、鮮やかなオレンジ色になってくれるという。

「そんなスニーカーじゃダメダメ。これがいちばん!」と千明さんは笑いながら足袋を指さした。急斜面で踏ん張るための相棒である。

「足場は悪いけどとにかく水はけのよい土なんですよ。ほい!」

もぎたてのみかんが手渡された。皮をむくとさわやかな香りが漂い、なんともみずみずしくておいしい! 房が10個以上あるものは甘みがギュッとつまっているのだと教えてくれた。

「立っているだけでも結構キツイでしょう? わたしも最初は足がプルプル震えました(笑)。こんなところで毎日作業している親父はすごいなって」

太郎さんが若くして跡を継ぐ決意をしたのは、ある出来事がきっかけだった。一昨年、収穫のさなかに千明さんが足を骨折してしまったのだ。

「父の大変そうな様子を見て、はやく自分も力にならなければと思ったんです」

いまの時季は朝7時半には畑へ出かけ、日没までひたすら収穫。帰宅したら今度は選別作業が待っている。

「うちの畑は東向きだから、どうしても傷が多くなる。天気が荒れるときは東から風がふくでしょう。だからぼくは手間でも1個ずつ手にとって確認するんです」(千明さん)

とっぷりと日が暮れても、蛍光灯がともる納屋での作業は深夜2時ごろまでつづく。地道ながらも、親子でできる日々に幸せを感じているそう。

代々守ってきたこの山を
親子でつなげていく

かつて家業といえば、「長男が継ぐもの」というのがあたり前だった。しかし現代は少子化の影響もあり、その考えはもう廃れはじめている。それでも太郎さんには、「いつかは自分が」という気持ちがあったと話す。

「正直、これまでの仕事とはまったくの畑違い。でも、責任なんてカッコいいもんじゃないですけど、長男だという自覚はありましたからね。同級生にもみかん農家はいますし、いたって自然なことですよ」

なんとも頼もしい言葉だ。

これまで直接「継いでほしい」とは決して口にしてこなかったものの、やっぱり千明さんはうれしそう。

「息子から継ぎたいと言われたときは、『おう』としか返せませんでした。なんだか照れくさくてね(笑)。でも、なにも言わなくても自分と同じ道を選んでくれた。これ以上のことはないですよ」

とはいえ、まだまだ農家1年生。家では父の教えを受けながら、みずから講習会などにも参加し日々勉強中だ。

「いまはまだ、毎日の作業をこなすだけで精一杯。それでも青く小さかった実が、こうやって大きくなってくれるとうれしいものですね」と顔をほころばせる。

最後に千明さんは、こう語ってくれた。

「冬は家族そろってこたつでみかん。それがないと寂しいじゃないですか。自分たちが受け継いでいかなければ、そんなあたり前の日常もなくなってしまう。たくさんの人に『今年もおいしいね』って食べてほしいから、わたしたちは家族で力を合わせてみかんをつくりつづける。それだけです」

手を伸ばした先には、太陽の光をたっぷり浴びてピカピカに輝くみかん。代々守ってきた山は、誇らしくもゆたかな実りで満ちていた。

みかんの健康効果はすごかった!

小清水さん直伝!おいしいみかんの見分け方

β-クリプトキサンチンという色素が含まれ、骨粗しょう症やリウマチ予防に。白い筋は繊維を含み血管を強くするので、とらずに食べた方が○。1日3個を目安に。

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2024/10/06 4:00:54