ウージ、南風に揺られて

自然の摂理に守られた、
珊瑚礁の島

ウージ、それは沖縄の方言でサトウキビを意味する言葉。今回、近藤会長が訪れたのは、そんなサトウキビが一面に広がる沖縄県は伊平屋島。『野草酵素』の原料のひとつ、「黒糖」を求めて。

那覇空港から北へ車で2時間、さらに船に揺られること2時間弱、そこには真っ青な海、緑濃い山々、雄大な自然と古琉球の原風景があった。

近藤会長いわく、発酵にとって黒糖は欠かすことのできない原料。長年探してようやく見つけたものだという。しかし、なぜここまで遠く離れた土地のものを選んだのであろうか。伊平屋島の黒糖でなければならない理由とは。

太陽が照らす島
「てるしの」の島

沖縄県伊平屋島。まばゆいばかりに太陽が照らすことから、別名「てるしの」の島とも呼ばれる。ゆえに年間を通し気候は温暖、農作物にとってこれ以上ない環境だ。

我われをむかえてくれたのは、伊平屋島の製糖工場長を務める諸見直樹さん(45歳)。サトウキビ畑、工場内を案内してくれた。

「伊平屋島の黒糖は歴史が古く、明治30年ごろにはサトウキビ栽培がはじまっていたようです。島民1400名ほどの小さな島ですが、そのなかの約58世帯がサトウキビづくりを営んでいます。サトウキビに囲まれた島です」と諸見さんは語る。

昔は手作業でおこなっていた収穫も、いまではトラクターをつかうのが主流。しかし時代の移り変わりは、これまでにはない苦労も生んだという。

「黒糖はいきものなんです」と話す諸見さん。少しの温度変化で表情を変えるという。サトウキビづくりから黒糖精製まで、目が離せない
サトウキビづくりの歴史は古く、昔は手作業で刈り取っていた。大勢の人手が必要だったため、糖はとても高価なものだった(写真:伊平屋島歴史民俗資料館)
トラクターでのキビ刈り作業が主流となった現代。サトウキビの新規植えつけは年2回。春植え(2〜5月)と夏植え(7〜9月)がある。収穫時期は完熟・糖熟しているかどうかで変動するという

「沖縄全域で見ても、昔にくらべて異常気象がもたらす被害は増えました。成長不良のキビは、もちろん出荷できません。対策といえば、個別に水やりをするほかなく、手間が大変なんです」

それでも一定の収穫量を保持できるのは、生産者の努力と伊平屋島特有の土壌にあるのだという。

珊瑚礁でできた土壌、
国頭マージと島尻マージ

「伊平屋の土壌は、おもに国頭マージ*1と島尻マージ*2という2種類の地質からなっています。これがサトウキビや果樹の栽培にはとても適しているんです。さらに小さな島国なので、土壌の成分は珊瑚質が豊富。だから、天然ミネラルをたっぷり含んだサトウキビが収穫できるんですよ」

伊平屋島に連なる山々には、野生動物も多く棲息している。白く見えるのがヤギ。その奥にむき出しになった赤土が、国頭マージだ
身の丈をゆうに越える長さの伊平屋島サトウキビ。「色やツヤ、太さも立派。しっかり育っているね」と近藤会長

さらに亜熱帯地域特有の台風や雨風が、サトウキビの成長を邪魔する雑草や害虫を除去してくれるのだという。この絶妙な自然の摂理が、サトウキビを守っているのだ。諸見さんはつづける。

「こうして収穫したサトウキビを、製糖工場にて栄養分を余すことなく搾り出します。白砂糖は栄養分を取り除いてしまうのに対し、黒糖はキビ汁を搾り出して凝縮したもの。この差が黒糖に健康効果を与えるんです」 低カロリーかつ、天然ミネラルである鉄分、カルシウム、カリウムなどさまざまな栄養が含まれる黒糖。栄養の振り分けをしない純粋な糖分なのだ。

トラックに積まれる収穫したてのサトウキビの山。1袋あたり約800kgあるが、これを黒糖にすると約80kgになる。収穫したサトウキビの10分の1しか黒糖はできない。希少なものなのだ
刈りとったばかりのサトウキビ。うっすら透明ににじみ出ている汁は、栄養の豊富さと新鮮さの証
サトウキビ搾り汁を、煮つめていく工程。段階を踏み、糖度を高めていく

「ミヤトウはここを重要視している。これぞわたしが探していた黒糖なんです」 諸見さんのお話を聞いた近藤会長が、ぽつりとつぶやいた。

*1  伊平屋島北部に多く見られる赤土。植物などの堆積からなる土壌

*2  伊平屋島南部に多く見られる黄褐色の土。古代珊瑚の化石からなる琉球石灰岩の風化作用でできた土壌

※マージとは沖縄の方言で「土壌」を意味する

発酵に不可欠な糖質と
ミネラルを備えた結晶

「酵素研究をはじめてまだ間もないころ、発酵にはなにが必要なのかわからなかった。そこでひとつずつ試研していくことに。はじめは、理屈なんてなかったからね。そして昭和21年にひとつの答えがでた。糖質とミネラルが有用菌のエサになること、繁殖には不可欠だってことに気づいたんだ」

有用菌の種類によってエサの好みはさまざま。野草、野菜、くだものから得られるもの、そして黒糖から得られるものが必要だったという。

「土壌が違えば得られる栄養も異なる。だからこそ、伊平屋島の黒糖が欲しかったんだ。天然のミネラルと糖質をたっぷり兼ね備えた結晶だからね」

昔は献上米ならぬ献上糖としても重宝された伊平屋島黒糖。口溶けのよさと上品な甘み、そしてミネラルたっぷりの栄養分が特徴だ
深くうなずきながら、伊平屋島黒糖を味見する近藤会長。たしかな味に納得のご様子

からだをそうじする酵素の原料を、農薬浸けの外国産に頼るわけにはいかない。国産と品質にこだわったことで、探すのに長い時間がかかったのだという。近藤会長の言葉に、諸見さんはこう応えた。

「日本の黒糖シェアは、安価な外国産に大半を占められているのが現状。しかし、近藤会長のように栄養や味、安心・安全を見極めて選んでいただけることは、つくり手からすると感無量なことです」

近藤会長は、大きくうなずいてこう語った。

「酵素研究と黒糖づくり。立場は違えど、本物を求めつづける気持ちは同じと考えています。これからもよきパートナーとして、お互いにいいものをつくっていきましょう」

南風に揺れる一面のサトウキビ畑。探しつづけた心の国産が、ここにもあった。

珊瑚礁の島で、自然の摂理に守られ育てられるサトウキビ。時代は移り変わっても、この風景だけは変わらず残っていくのだろう

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2024/10/06 5:13:28