特集・対談

やっぱり発酵はすばらしい!

医学博士 藤田紘一郎 ×
食養研究家 山田奈美

ある調査によれば、「発酵」についてのインターネット検索数はここ2年で4.5倍に増加しているという。発酵食品が美容や健康に有用であることはもはや常識であり、市場には多くの商品があふれ返っている。あらためて見直される魅力とはなにか。腸内研究の第一人者として発酵食品にもくわしい藤田紘一郎氏と、自宅で発酵教室を開き日本の食文化を広く伝える活動をしている食養研究家の山田奈美さんに、大いに語っていただいた。
ぐるなびデータライブラリ調べ

医学博士
藤田紘一郎

1939年中国東北部(旧満州)生まれ。寄生虫学、感染免疫学、熱帯病学を専門とし現在は東京医科歯科大学名誉教授を務める。ユニークな視点と語り口から寄生虫博士、カイチュウ博士として人気を博す。著書に『笑うカイチュウ』『腸内革命』『脳はバカ、腸はかしこい』など

食養研究家
山田奈美

武鈴子氏に師事し、昔ながらの日本の食文化を継承する活動にとり組む。著書に『はじめる、続ける。ぬか漬けの基本』『昔ながらの知恵で暮らしを楽しむ家しごと』『発酵おやつ』など

歳をとるとぬか漬けが食べたくなる?
その理由とは……

まず、ご自身で発酵食品をとり入れるようになったきっかけをお聞かせください。

山田 祖母が、ぬか漬けをずーっとやっていたんです。以前畑で野菜がとれ過ぎて、どうやって消費しようかと考えたときにふとそれを思い出して。そこからいろいろな発酵食品づくりに挑戦するようになりました。

藤田 わたしは腸内細菌の研究をする中で発酵食品の重要性に気がつきました。山田さんは発酵教室をやっていらっしゃるそうですね。

山田 はい。発酵食品を意識してとるようになってから、自分のからだがかわっていく感覚があって。みなさんにもそのすばらしさを伝えたくて教室をはじめました。漬物や味噌などのつくり方を教えています。

藤田 生徒さんはどういった方が?

山田 下は18歳から上は60代の男性まで。ご自分の体調に悩んでいたり、ご家族のからだを整えたいという方がいらっしゃいます。

おいしく漬かったぬか漬けは定番野菜だけでなくカリフラワーやアボカドのかわり種も

藤田 発酵食品をとると体調がよくなることを、みなさん経験的に知っているのでしょうね。

山田 歳を重ねたら子どものころに食べたぬか漬けが恋しくなった、という方もいらっしゃいましたね。

藤田 腸が欲しているのでしょうね。その人の腸にどんな腸内細菌が棲みつくのか、生後3年で全部決まってしまいます。小さいころに食べたぬか漬けの乳酸菌が定着しているのですよ。

山田 3歳までにとりこんだ菌は大人になってもかわらないということですか?

藤田 ええ。自分の腸に棲んでいない菌は摂取しても死んでしまいます。ただし、死菌は腸内細菌のエサになりますから決してムダにはなりません。


腸がよろこぶ食生活にかえると
からだもかわる!

山田さんは和食中心の食事にする前、不調が顕著に表れていたそうですね。

山田 20代のころは夜中まで仕事をすることが多くて、めちゃくちゃな生活をしていたんです。外食も多かったですし。冷えに生理痛、肌荒れなどのトラブルが絶えませんでした。

藤田 じつを言うと、わたしも腸がよろこぶ食生活に切りかえる前は、忙しさのストレスから暴飲暴食をくり返していました。糖尿病まで患うありさまでしたから。

山田 先生にもそんな時期があったのですね! わたしは体調を整えたくて30代になってから食事を見直しました。やっぱり食べ物をかえると、時間はかかりますが不調も徐々に解消されていって。

藤田 和食中心にすれば、おのずと酵素や植物性乳酸菌がとれますからね。

山田 はい。わが家の朝ごはんは味噌汁に納豆、梅干し、漬物、出し殻昆布とかつお節の佃煮が定番です。あとは炒め物などをもう一品。

藤田 バランスのとれた理想的な献立ですね。納豆と妻がつくってくれる漬物はわたしも毎日食べています。

山田 それから、旬のものを食べるよう心がけています。自然界がその季節に用意してくれたものが、からだにとっていちばん必要な食材ですから。7歳の息子も、わたしと同じ食事をしているせいかめったに風邪をひかないんですよ。

藤田 そうでしょう。腸内の善玉菌が元気で免疫力が高い証拠ですよ。

山田 快便大賞とかあったら出たいと思っていたくらいお通じもいいです(笑)。

山田さんの息子大地くん(7歳)が毎年誕生日に食べるという専用の梅干しと自分で仕込んだ白味噌を見せてくれた。寒い日も半袖で元気いっぱいだ

発酵食品の健康効果。
カギを握るのは日和見菌だった

発酵食品の健康効果は善玉菌によるものと考えてよろしいのでしょうか?

藤田 善玉菌のはたらきはもちろんですが、注目していただきたいのは発酵食品に含まれる日和見(ひよりみ)菌です。

山田 日和見菌、ですか。確か腸内で優勢な方に味方する菌ですよね? 悪玉菌が多ければそちらに寄ってしまうという……。

藤田 そのとおり。人の腸には100兆個以上の腸内細菌が棲んでいます。じつは、その中で善玉菌をどんなに増やそうとしても、全体の2割程度までしか増えません。

山田 えっ! そうなのですか!?

藤田 そこで発酵食品の摂取が大事になってきます。善玉菌といっしょに、味方となる日和見菌もたくさんとり入れることができますから一石二鳥。カギを握っているのは、ずばり日和見菌なのです。

山田 味噌に漬物、納豆……。自然と両方の菌がとれる和食は理にかなっているということですね。

藤田 先祖代々食べてきた発酵食品には、日本人の腸が元気になる日和見菌が多い。納豆を発酵させる納豆菌も日和見菌の一種ですからね。

山田 有用な菌をとれることもそうですが、発酵させると消化がよくなりますし、タンパク質やビタミン、ミネラルなどの栄養素も増えますから、からだには最適ですね。

旬の食材はムダなくつかう。ミカンやリンゴの皮は2~3週間干してたくあん漬けに入れるそう

おいしい本物の発酵食品を
選んでほしい

最近の発酵食ブームについては、どのようにお考えですか?

藤田 日本は発酵食品の数が他国にくらべて圧倒的に多い。これはすばらしい伝統文化ですから、あらためて注目されるのは大変よいことだと思います。しかし、「発酵食品だ」と思っていても、じつは本物でないものを食べている場合が多い。そこが落とし穴なのです。

山田 市販されている商品には、保存料など発酵を止めるものが入っていますよね。

藤田 ええ。品質を均一にするためですね。味噌なんかも発酵が進まないように添加物を入れた商品が多い。問題は、それらを摂取すると腸内細菌の活動まで止まってしまうということです。商品を選ぶ際には原材料もしっかりチェックした方がいいでしょうね。

山田 いま、本物とよべる発酵食品はすくないと思います。手づくりがいちばんですが、全部はむずかしいでしょうからぬか漬けだけでも自家製にしてみるとか。混ぜる習慣をつけてしまえば意外とかんたんですよ。

藤田 ほんとうの発酵食品をつくるには、地道な努力がともなうことは間違いありません。発酵がブームといわれて久しいですが、自分の口に入れるものは確かな目を持って選んでほしいと思います。

本日はありがとうございました。

焼きシイタケと春菊のリンゴおろし、ぬか漬け鶏のグリル、甘酒蒸しパンなど

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2024/10/06 3:11:20