食べるだけでがんを防ぎ、血圧を下げ、血糖値や血中コレステロールを低く保つ。
そんな夢のような食べ物をご存じだろうか? 決して特殊なものではなく、日本人にとってごく身近なものだ。
その答えは、味噌。「医者に金を払うより味噌屋に払え」ということわざがあるが、近年の研究で数々の健康効果が証明されたという。
驚異のパワーを秘めた味噌の世界、くわしくご案内しよう。
血圧も血糖値もおまかせ!
がんをも防ぐスーパーマン
古くは平安時代の文献に登場し、1300年以上の歴史を持つ味噌。日本固有の発酵食品である味噌は、大豆を麹菌で発酵させることで酵素をたっぷり含み、アミノ酸、ビタミン、食物繊維も豊富。おいしく食べてからだにいい「酵素ごはん」の代表である。さらにすごい効果があります、と広島大学名誉客員教授の渡邊敦光先生は語る。
「味噌の効果は大きく分けて4つ。放射線からからだを守る、各種がんを予防する、高血圧と脳卒中のリスクを軽減する、そして糖尿病や肥満の改善です」
医学博士
渡邊敦光先生
広島大学名誉客員教授。実験病理学と放射線生物学の専門家で、がんの発生・予防の研究に携わるいっぽう、味噌の健康効果に注目。がん予防と味噌のテーマで論文を発表。著書に『味噌力』
ひとつ目については、放射線障害を受けたマウスに味噌を与えると小腸の細胞が再生することが確認されているというから驚く。また、日本人の死亡原因の上位を占めるがんも、味噌を毎日とる人ほど胃がんによる死亡率が低いことが判明。乳がんや肺腺がん、大腸がんでも研究が進められている。
だが、味噌汁は塩分で血圧が上がりそう……と敬遠する人も多いなか、「高血圧リスクを下げる」点はにわかに信じがたい。渡邊先生、大丈夫でしょうか?
「心配いりません! 実験で2.3%の食塩のみを含むエサを与えたラットは血圧が上昇しましたが、同じ塩分量の味噌を食べたラットは血圧が上昇しませんでした。不思議なことに、味噌の塩分は食塩単独とは異なるはたらきをするのです」
味噌汁を1日2杯飲む人は飲まない人にくらべ、高血圧のリスクが5分の1以下になったデータもあるそう。ちなみに、味噌汁を常食していた人は原爆の後遺症に悩まされる確率も低かったとか。さらに、大豆由来のイソフラボンやメラノイジンは血糖値の急上昇を抑えてインスリンの分泌をよくし、血中コレステロールを低く保つこともわかった。味噌は血圧を上げるどころか、血管・血液の救世主なのだ。
原料である大豆だけでは、ここまでの効果はない。麹菌で発酵、熟成させることでさまざまな健康効果が生まれるのだから、菌の力はじつに偉大である。
取材協力
糀屋三郎右衛門
東京都練馬区中村2-29-8
☎03-3999-2276
いまでは稀少となった木桶で発酵・熟成させる味噌蔵。「家族みな病気知らず。蔵つきの菌や休憩時間に飲む味噌汁がいいのかもしれませんね!」と7代目の辻田雅寛さん(左から2人目)
トマトのマリネに味噌?
食べてビックリ、深いコク
食べるだけで健康になるならもっと味噌を食べたいものだが、サバの味噌煮と味噌汁ばかりでは飽きてしまう。そこで、取材班は味噌料理にくわしい岩木みさきさんを訪ねた。
「発酵で生まれる複雑なうま味とコクが味噌の魅力。くわえるだけで味に深みが出て、あらゆる料理をおいしくします。味噌は和食専用、という固定概念のない若い料理人の間では、和洋中こだわらずつかわれていますよ」
実践料理研究家
岩木みさきさん
昔ながらの木桶仕込みの味噌蔵をめぐり味噌の魅力を発信。実践料理研究家とは「実践できる料理を」という信念から命名。『野菜玉レシピ』『酢タマネギ健康生活』など健康レシピを掲載した著書も人気
かんたんにつくれる味噌料理を教えてもらった。トマトのマリネ、肉味噌豆腐、キュウリのナムル……料理はカラフルで地味さがまったくない。ワクワクしながら箸をつけると、おいしくてビックリ! 化学調味料では決して出せない完成された味だ。
「手あたり次第サプリメントをとるより味噌の方がずっと効果的。余分な調味料を省け、塩分や糖分を控えられる味噌料理は理想の健康食です」と渡邊先生もお墨付き。
ちなみに、トマトのマリネにはチーズのような熟成した風味の山口の麦味噌、肉味噌には濃厚な豆の香りが特徴の愛知の豆味噌と、それぞれの料理に合う味噌がつかわれている。まるでワインのマリアージュだ。
「パックの味噌でも問題ありませんが、加熱殺菌していない昔ながらの生味噌なら風味も味も抜群で麹菌や酵素がたっぷり。よりおいしく、からだにいい一品になりますね」
生味噌といえば、かつての日本人が毎日食べて病気を遠ざけてきたもの。最近ではこういった昔ながらの味噌が人気というが、味も健康効果も花丸とくれば流行するのも納得だ。
おいしくて、料理にくわえればたちまち絶品になる味噌。しかも、誰もが気になる生活習慣病やがんまで予防すると来ては、食べないのはあまりにもったいない。今日からあなたも「一日一味噌」を合言葉に、からだの味噌力を上げてみては?
日本味噌マップ
地域の食文化と気候に合わせて進化をとげた味噌。原料は同じ大豆でも、発酵を担う麹が米麹なら米味噌、麦麹なら麦味噌、豆麹なら豆味噌と名称が異なり、味と香りに違いが生まれる。なお、味噌の色は大豆の加熱法で変化し、大豆を煮てから発酵させると淡く、高温で長時間じっくり蒸すと濃くなる。食べくらべて好みの味噌を探すのも一興だ。